孤独死の現場やゴミ屋敷など“危険地帯”で取材活動を続けてきたライター兼イラストレーターの村田らむ氏。「日本最大のドヤ街」と知られる大阪の西成で、ホームレスからなけなしの金品を奪い取る路上窃盗団の話を耳にしたという。
一口にホームレスと言っても、生い立ちや性格などは人それぞれ、十人十色だ。
だが、野外で生活をしなくてはならない状態になっているわけだから、基本的にはほとんどお金は持っていない。そこは共通している。しかしそんなわずかなお金を狙う泥棒がいる。ホームレスから物を盗る人は地方によって「シノギ屋」「マグロ」などと呼ばれていた。
ホームレスから物を盗むのは、やはりホームレスである場合が多い。
テントの外に置いておいた、空き缶が誰かに持っていかれたり、荷物を盗まれたりする。そんなことはしょっちゅう起きる。
だから、多くのホームレスは、本当に大事なものは肌身離さず持っている。
腹巻きや靴の中に虎の子の現金を入れたり、免許証に穴を開けて紐を通して首から下げていたりする。
そこまで用心していたら大丈夫そうだが、それでも盗まれてしまうこともあるという。
日本最大のドヤ街、大阪の西成(あいりん地区)にあるセンターと呼ばれる大きな建物の周りで寝ていた、50代の男性に話を聞いた。
「俺はまだ50代だし、たまに飯場で働くんだよ。数週間から1カ月くらい。それで現金をもらって飯場から帰ってくると、襲われる。もちろん誰にも言ってないんだけど、なぜか金を持っていることがバレちゃうんだね」
彼は、彼を襲った犯人は「中国人の窃盗団」だと語った。もちろん、それは彼の想像だが、他にも同じ証言をする人はいた。
とにかく路上で眠っている時に殴られ、蹴られ、ボコボコにされる。そして持っていた現金などを根こそぎ持っていかれる。
男性の顎はパックリと割れ、黒い糸で縫い付けてあった。そして下の前歯も折れていた。そんなひどい状況だが、ほぼ無一文だから今日も野宿をするしかない。
「数週間汗水たらして働いたのが水の泡。そればかりかケガをしちゃってマイナスだわ。そんなのが1回じゃないよ。飯場から帰ってくると決まってやられる……」
何回もやられているなら、西成以外の場所で寝るとか、簡易宿泊施設を借りるとかしたらいいと思う。
「ひどい街だけど、それでも西成が好きなんよね。友達もいるし、他に受け入れてくれる街もないからな。ついつい西成に帰ってきて、酔っ払って路上で寝ちゃってる」
と男性は寂しそうに笑った。
聞き込みを続けると、さらにひどい暴力が振るわれているという話を聞いた。
やはりセンターの近くにいた、60代の男性は語る。
「ヤツら、寝ている時にいきなりナタでアキレス腱をパン!! て切るんよね。走って追いかけて来られんように。物を盗まれるのも困るけど、それよりケガさせられるのはたまらないよね」
寝ている時にナタで斬りつけるなんて、まるでスプラッタ映画だ。想像するだけで、血の気が引いてしまう。
路上で眠るホームレスを見て「いつも呑気に寝やがって」と文句を言う人がいる。
だが彼らが安眠できる日はないのだ。
(写真・文/村田らむ)