2027年の開業を目指すリニア中央新幹線。その工事を巡るJR東海と静岡県のガチバトルが止まらないどころか泥沼の様相を呈している。
「問題となっているのは工事によって生じるとされる静岡工区内の『大井川の水問題』です。リニアは品川—大阪間を直線に近い形で結ぶもので、静岡県内では静岡市北端部の南アルプスをトンネルで横切るんですが、南アルプスは中下流域に住む静岡県民にとって大事な水資源である大井川の水源地点です。しかしトンネルの工事を行うことで湧水が発生、それが隣接する長野県や山梨県に流出して水を失うというのが静岡県の主張。工事の仕方でそれはないというのがJR東海の主張。両者の意見が食い違い、JR東海の説明についても『矛盾している』『矛盾していない』と揉め続けているんです」(全国紙記者)
そしてついには6月26日にJR東海の金子慎・社長と静岡県の川勝平太・知事との間でトップ会談がもうけられたものの、それも物別れ。その後、JR東海が公開質問状を送って衆人環視の中で改めて工事の正当性を主張したものの、対する静岡県が「(やはり工事は)認められぬ」と返答、もはや和解の余地はなさそうな気配なのだ。
そのため周辺関係者の間では、2027年に予定されていた品川—名古屋間の部分開業はもはや延期が避けられず(大阪までの全線開通は2035年予定)、それどころか、このままでは長い法廷闘争に発展しかねず、そうなったら工事の遅れどころの話ではないのでは、との見方さえある。
というのがここまで両者がガチになっているバトルの経緯なのだが、問題の本質はここではさておき、逆に目につくのが双方の“非常識”っぷりだ。
JR東海が送った公開質問状では、「弊社社長」との記述があるが、そもそも「社長」という呼称自体が敬称なので、本来なら遜って「弊社金子」とでもすべきところ。ビジネスマナー的にはバツだ。一方、トップ会談の模様は、静岡県が動画をアップしたのだが、そのタイトルには「川勝知事とJR東海金子社長との面談」とある。だが会談は静岡県側が金子社長を知事室に招く形で行われたものだから、金子社長の名前を先にあげるのがマナーのはずだ。両者共に“大人”が取るべき行動としてなっていない、「上から目線」なのだ。ともすれば、怒りのあまりわざとそうしているのではないかとさえ思えてしまう。
「それにしても川勝知事の場合は前から『ヤクザ』、『ゴロツキ』といった品のない発言が目立っていますね。リニアが通過する9都府県からなる建設促進同盟会に至っては『圧力団体』とバッサリです。同じ県内でも、身内であるはずの静岡市や浜松市といった主要都市は建設推進派で、県との溝はクッキリ。川勝知事が孤立しているのが現状です」(前出・全国紙記者)
孤立無援の戦いとでも言えば聞こえもいいのだが、多勢に無勢。ロンリーバトルと表現すれば、どことなく悲哀が透けて見える。
(猫間滋)