偶発的に起こったハプニングなのか、はたまた事前に仕組まれた挑発だったのか…。
2月28日、ホワイトハウスで行われたトランプ大統領とゼレンスキー大統領との首脳会談。ところが会談の途中、両者の間で「我が国に失礼だ」「何を言ってるんだ」「『ありがとう』と言え!」「あなたは間違ってる」といった怒鳴りあいが勃発。そのシーンが全世界に生中継されるという異例の事態が起こった。
会談後、私邸のあるフロリダ州へ向かう途中、記者団の質問に対しトランプ氏は「素晴らしい会談にはならなかった」と振り返り、自分が望んでいるのは長引く戦争ではなく、平和だ、とした上で「(ゼレンスキー氏は)強気に出過ぎた。戦って、戦って戦いまくることを望んでいる」と憮然とした表情で答え、一方のゼレンスキー氏は米フォックス・ニュースのインタビューで、トランプ氏との関係修復について「当然可能だ(両国)関係は、2人の大統領の関係以上のものだからだ」と述べるに留まった。
むろん、この異例ともいえる「怒鳴り合い会談」には、各国首脳の反応も様々。カナダのトルドー首相は《ロシアはウクライナに対して違法かつ不当な侵略を行った。カナダは公正で永続的な平和実現のために、ウクライナとウクライナ人と共にあり続ける》とSNSに投稿。フランスのマクロン大統領も声明で「侵略者はロシア、攻撃を受けている側がウクライナだ」と強調。またショルツ独首相はXに《ウクライナはドイツを、欧州を頼りにしてくれていい》と書き込み、ほかにもリトアニアのナウセーダ大統領やエストニアのツァフクナ外相からも、《ウクライナ、あなたは決して一人ではない》《ウクライナが戦いをやめれば国はなくなる》といった支援メッセージが数多く寄せられることになった。
だが、この会談での口喧嘩に大喜びしたのが、戦争当事国のロシアだった。
「メドベージェフ安全保障会議副議長は28日のテレグラムで、《トランプ氏は初めて面と向かって真実を告げた》と同氏を持ち上げた後、《“恩知らず”は激しい平手打ちを受けた。これは有益だ》とゼレンスキー氏を激しく揶揄しています。また、ロシア下院国際問題委員会のスルツキー委員長も同日のテレグラムで《トランプ氏は私たちが何度も繰り返してきたことを理解した。ゼレンスキー氏は和平の準備ができていない。(ゼレンスキー氏は)弱々しく哀れで知性に欠けていた》として、《ロシアの勝利により平和が確保される。戦場だけでなく、効果的な外交を通じてものだ》と投稿しています。まあ、ロシア側からすれば、それ見たことかといったところでしょうが、この口喧嘩により、EUのウクライナへの支持が今まで以上に強固になったことだけは間違いなさそうです」(国際部記者)
一方、ロシアと友好関係にある中国は、政府としての公式コメントは控えているものの、国営の中国中央テレビ(CCTV)をはじめ国内メディアは、メドヴェージェフ氏の《ゼレンスキーは大統領執務室でしっかりと叱責された》というコメントを引用するなどして、ウクライナ側の立場の弱さを強調。さらにロシア外務省のザハロワ報道官が放った「トランプはゼレンスキーを殴らなかったことで自制を示した」とのコメントを紹介するなど、ロシア側に立った視点での報道を繰り返している。
米国の同盟国である英国のスターマー首相は両者が決裂後、トランプ、ゼレンスキー両氏と会談。「ウクライナへの揺るぎない支持を継続し、同国の主権と安全保障に基づく恒久平和への道を見いだすために尽力する」として3月1日、22.6億ポンド(約4270億円)の対ウクライナ追加融資を決定。今回の問題をきっかけに今後、米国と西側諸国との溝が深まる可能性も指摘されるが、1日でも早く戦争を終結させたいトランプ氏は今後もあらゆる手段を使い、ウクライナと交渉に臨んでくるはずだ。ゼレンスキー氏に対し「関係修復」のために、次はどんなディールを仕掛けてくるのか。世界の首脳陣が注視している。
(灯倫太郎)