「イカの街」として知られる函館のスルメイカ漁がかつてない不漁に見舞われ、とんでもない状態になっている。
函館近海の小型漁船によるスルメイカ漁が解禁された6月1日。ところが、出航した11隻のうち、スルメイカが捕れた船はほんのわずかで、全船が同日中に帰港。結果、2日朝に予定されていた初競りが1965年の開設以来初めて中止されるという緊急事態に陥っている。
函館魚市場関係者によれば、漁師の中には「とてもではないが、これでは燃料代と収益とが見合わない」として3日以降も漁の見送りを検討する漁船が多くなる可能性は高く、イカの街、函館市に今、激震が走っている。全国紙記者の話。
「函館におけるスルメイカ漁の取扱量はピーク時に約9000トン。しかし、年を追うごとにその数が減少し、2023年には過去最低の317トンを記録。昨年は少し盛り返したものの、400トンと過去2番目に少ない捕獲量にとどまった状態です。船の大きさや性能によって燃料費は異なるものの、漁に出れば往復するだけでゆうに5万円はかかる。このままの状態が続けば、廃業する漁師が増えることは間違いないでしょうね」
水産庁のデータによれば、日本のスルメイカ漁獲量は1950年代から2000年までの間、おおよそ30万トン前後で推移。1968年のピーク時には66万トンを記録していたという。ところが、01年以降は減少傾向が続き、16年からはさらに激減。23年には2万トンまで落ち込み、これはピーク時のたった3%で、33分の1の水準だという。
「通常、スルメイカは東シナ海から日本海の水深100~500m程度の海底で産卵し、ふ化した赤ちゃんが海面に浮上してくるのですが、その時に適した水温がだいたい19.5~23℃。ところが、温暖化により表層が高温になったことで、生き残る赤ちゃんの数が減ってしまった。加えて黒潮などの影響で潮の流れが変わり水温が変化したことで、本来なら獲れていた場所で獲れなくなったり、時期がずれてしまった可能性もある。また、クロマグロの数が回復傾向にあり、大好物であるスルメイカを大量に食べていることも考えられる。いずれにせよ、複合的な要素により、日本の近海からスルメイカがとんでもないスピードで姿を消している状態にあるということなんです」(同)
そして、自然現象による減少に拍車をかけたのが、中国や北朝鮮による傍若無人とも思える乱獲だった。近年は漁獲量の減少に伴いすっかり鳴りを潜めているが、13年~19年頃にかけては、年間50~200隻超えの北朝鮮船籍による密漁や、中国船の日本の排他的経済水域(EEZ)内での操業が問題視されていた。
「当時は北海道沖の武蔵堆から大和堆まで、EEZ内に約2000隻の北朝鮮の密漁船がいたとされ、17年6月には大和堆周辺で水産庁の漁業取締船の目の前で、国際的に禁止されている『流し網漁』を堂々と行っていたことが発覚している。以前は電光掲示板やマイクでの警告に留めていた水産庁も、以降は違法行為を発見次第、船に向け放水するようになったものの、いったん逃げてもまた戻ってくるといういたちごっこが続いていた。結果、長年にわたる密漁による乱獲が、減少傾向にあったスルメイカの資源をさらに減らし、絶滅しかねない状況に追い込んでしまったということです」(同)
スルメイカはむろん鮮魚出荷だけでなく、スルメなどさまざまな加工品としての需要も大きい。捕獲量が少なくなれば当然価格も高騰するだろう。庶民の味方として長年酒のアテだったスルメイカが食べられなくなる日がくるかもしれない…。
(灯倫太郎)