【今回のお値段「キンカン」:「たまたま」キロ5000~6000円(市場仕入れ価格3000~4000円)】
今シーズン、1キロ1000円を超える値が付くなど、「あのミカンが高級フルーツの仲間入りか」と言われた。価格高騰が顕著な柑橘系の中で、今まさに旬を迎えているのが「キンカン」だ。青果店店主によれば、
「キンカンといえば、酸っぱくて苦いというイメージがあるでしょう。その常識を覆した品種があるんですよ。その名も『たまたま』。なんと糖度は16度以上で、この品種に人気が集中しています」
酸味と苦味のせいで、甘露煮など加工して食されることが多いキンカン。ところが、この「たまたま」は調理の手間いらず、そのまま皮ごと食べられて、十分に甘いというのだ。
日本全体のキンカン生産量の3分の2を占める宮崎県が生んだ「ブランド果実」だけに、その栽培も手が込んでいる。花が咲いてから7カ月以上、樹の上で熟成させる。そのうえで、傷のない形のいいものを選別し、手作業で摘み取る。こうして従来のキンカンとは違う、大きくて甘いフルーツである「たまたま」は作られている。
誕生のきっかけは天候災害によって、キンカンを露地栽培からハウス栽培に変えたことだった。つい収穫期を過ぎても実をそのままにしていた農家があった。その実を食べてみたところ、びっくりするぐらい甘かったという。そこから品種改良のチャレンジが始まり、試行錯誤の末に「たまたま」は完成したのだ。
この名称も、大きく形がマン丸の玉のように育ったからではなく、甘いキンカンが「たまたま」偶然に発見されたことに由来するのだとか。
価格としては、3Lサイズで1キロ5000~6000円は珍しくない。このサイズで1キロ当たり約50~60個だから、1個で100円前後ということになる。市場仕入れ価格は3000~4000円程度だろうか。加工用のキンカンなら小売価格でも1キロ1000円以下でも買える。やはり「たまたま」は相当に割高だ。
それでも近年は「たまたま」のキンカン市場に占める割合が高まっている。その背景には「地産地消」もあるようで、
「一部では、学校給食に『たまたま』を出す地域もあります。割高ではありますが、給食を担当する栄養士さんたちの、できるだけ旬のものを、しかも甘くておいしい果物を食べさせたいという気持ちからのこと」(青果店店主)
宮崎の動きに他県も追随している。静岡の平均糖度20度以上の「こん太」など各地で甘いキンカンが売り出されている。ふるさと納税の返礼品としての需要もあり、さらにおいしいキンカンが出現する可能性は十分にある。
山中伊知郎(やまなか・いちろう)キンカンというと、どうしてもおせち料理に入った甘露煮のイメージが強い。ドラマなどにたとえれば、あくまで主役ではなく、ちょっと出てきていい味を出すバイプレーヤー、といったところか。