トランプ大統領とネタニヤフ首相「蜜月深化」と、グローバルサウスに強まる「親中国」

「グリーンランドを米国が購入する」「パナマ運河を米国に返還する」に続いて、今度は「パレスチナ・ガザ地区を米国が所有して再建する」と発言したトランプ米大統領。世界に混乱が広がっているが、トランプ大統領の返り咲きを誰よりも望んでいたのは、イスラエルのネタニヤフ首相だろう。

 一昨年10月以降、イスラエルとハマスや親イラン勢力との間で軍事的応酬が激化し、ガザ地区での犠牲者が4万人を超えるなど、イスラム諸国だけでなく欧州やバイデン政権からも反イスラエルの声が広がり、ネタニヤフ首相はある意味で孤立していた。しかし、盟友トランプが復活したことでネタニヤフ首相は政治的に不利な立場から脱却することに成功。トランプ大統領は早速、ネタニヤフ首相に逮捕状を出したICC(国際刑事裁判所)責任者に制裁を課す大統領令に署名し、両者の蜜月は今後さらに深まっていくだろう。

 一方、トランプ大統領の再来を最も冷ややかな目で見ていた1つが、グローバルサウス諸国だ。もちろん、国ごとに対米認識が異なるので一括りにはできないが、ASEANや南アジア、アフリカや中南米の多くの国々はトランプ政権を歓迎してはいないだろう。

 それは国際協調主義をアピールしてきたバイデン時代にヒントがある。2023年5月、広島で先進7カ国サミットが開催された際、招待国ブラジルのルラ大統領は、グローバルサウスはウクライナ戦争を平和裏に終結させたいのに大国がやる気がない、ウクライナを支援する米国はロシアへの攻撃に加担している、などと紛争を続ける大国に不満をぶちまけた。また、2023年6月にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議で、当時のインドネシアのプラボウォ国防相やフィリピンのガルベス国防相らが、米中対立を新冷戦と表現し、米中の貿易戦争やロシアによるウクライナ侵攻など大国を巡る諸問題に懸念を示している。

 2022年9月にも、当時のインドネシアのルトノ外相が国連の場で、ASEANが新冷戦の駒になることを拒否するとし、第2次世界大戦勃発までの動きと現在の対立プロセスが似通っており、世界が間違った方向に進んでいると警鐘。アフリカからも同様の声が聞かれ、例えば同年同月、当時のセネガル大統領は国連総会でウクライナ情勢などの大国間対立に言及し、アフリカは新たな冷戦の温床になりたくないとの意志を示した。

 要は、グローバルサウス諸国の多くは、バイデン時代から大国に強い不満を示してきたので、国連を軽視し、世界保健機関(WHO)からの脱退を躊躇なく実施したトランプ大統領に強い不満を抱いていることは間違いないだろう。一方、中国はそれを機会にグローバルサウス諸国にこれまで以上に歩み寄りの姿勢を示し、今後4年間、グローバルサウスでは中国有利な状況が続くことだろう。

(北島豊)

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