ティーバッグからも有害物質!あなたの周りの「マイクロプラスチック汚染」

 ちょっとひと休みのティータイム。わざわざ茶葉をポットに計量して湯を注がずとも、ティーバッグを用いれば容易に楽しめるだろう。日常生活には欠かせない便利な代物だが、これが我々の生命を脅かすかもしれないと‥‥。どうにも、聞き捨てならない話なのである。

 スペイン・バルセロナ自治大学の研究グループが発表した最新の研究によれば、市販の紅茶ティーバッグからおびただしい量のマイクロプラスチックが検出されたというのである。

 マイクロプラスチックとは、環境中に存在する5ミリ以下のプラスチック粒子。かねてより発がん性の有害物質を含む可能性が指摘されてきた。

 先の研究結果通りの事実があるならば、ティーバッグの入ったカップにお湯を注ぐ行為は、みずからマイクロプラスチックを摂取するための受け皿を作ることになるのだ。

 オーストラリアに拠点を置く、ウェブサイト「サイエンス・アラート」の記事によると、研究グループはスーパーマーケットなどで購入した3つのティーバッグの中身を取り出して熱湯に浸し、その水溶液を分析した。

 すると、ポリプロピレン製からは紅茶1滴(1ml)あたりおよそ12億個、セルロース製は1億3500万個、ナイロン6製は818万個のプラスチック粒子が検出された。また、腸内から取り出した細胞が24時間で大量の粒子を吸収していることも判明している。

 この研究結果を受け、マイクロプラスチック汚染を専門とする東京農工大学の高田秀重教授が解説する。

「こうした実験は、これまで海外で様々に行われていて、2019年頃から耳に入っています。今回の発表では、細かいサイズのナノメートルまで計測できたという点で驚きがあります。ただし数億個を摂取したからといって、すぐに何かが起こるというわけではありません。体内に取り込んだとしても、大部分は便として排出されると思います。腸内の細胞が取り込んだという実験結果も今回出ているので、排出されなかった小さなものの一部が血液に入ることは懸念されます」

 とはいえ、摂取によるリスクが考えられる以上、安穏とは構えていられない。

「まだ明確な結論には至っていないと思いますが、血管が詰まって脳梗塞、心筋梗塞などの病気にかかる恐れがあると考えられます。さらに、一般的にプラスチックには、耐久性や持続性を高めるために『添加剤』と言われる有害な化学物質が入っています。そうしたものが、プラスチックが細かくなることによって体内に吸収されやすくなり、生殖や免疫作用に影響が出ることも懸念されています」(前出・高田教授)

 実際に高田教授の研究グループは昨年3月、国内で初めて複数の人の血液中からマイクロプラスチック粒子の検出に成功している。先の説明のように、現時点でただちに人体に影響が出るとは言えないというのだが‥‥。

「マイクロプラスチックは生物の組織に蓄積されにくいですが、添加物は蓄積されやすいので、なるべく摂取は避けたほうがよいです。例えばカップ麺の容器や使い捨てのコップなどから体内に入ってくるケースもあります。そうした製品は、作られた瞬間から劣化が始まっていて、使用中にもマイクロプラスチック、ナノプラスチックや添加物が放出されている状態です。プラスチックの容器で食べ物、飲み物を加熱しないようにする。また、油っぽいものを入れないようにすることも対策になります」(前出・高田教授)

 マイクロプラスチックを摂取しない予防策として、使用している製品かどうかを知る必要があるだろう。

「食の安全・監視市民委員会」の守屋由紀枝氏が語る。

「食品の包材は『容器包装リサイクル法』によって、素材の表示が義務づけられている。だから、マイクロプラスチックになりやすいポリプロピレンやポリエチレンといったプラスチックなどが入っているかどうかを確認し、選択することができます」

 実は守屋氏たちは国内のパック製品の表示に疑問を抱き、独自の調査と、意見書の提出を行っている。

「出汁パックには、容器包装リサイクル法での表示の義務がないのです。私たちは21年に、市販の出汁パック5種類を海外のラボに依頼し熱湯で煮出した水溶液を分析しました。すると1つの製品からポリプロピレンが検出されたのです。日本では私たちのような市民活動の団体が働きかけても、実験を請け負ってくれる機関が少ない。そればかりか費用も高いので、頻繁に調査することができないのが現状です。一方、ヨーロッパでは危機感が強く、欧州食品安全機関(EFSA)は、マイクロプラスチックやナノプラスチックに警鐘を鳴らしていますからね」(前出・守屋氏)

 とはいえ日本でも、人体を著しく蝕む可能性を秘めたマイクロプラスチックの存在はもはや無視できなくなっている。各メーカーも神経を尖らせているのが現状なのだ。

 例えば緑茶のティーバッグを販売する「伊藤園」のホームページには〈マイクロプラスチックが溶け出すことはないか?〉という消費者からの問い合わせに対して〈当社ティーバッグ製品においては、食品衛生法に基づいた資材の溶出試験において問題ないことを確認しております〉と掲載されている。

 別のメーカーでは、トウモロコシなど植物のデンプンを材料としたティーバッグを販売しているほどだ。

 その利便性から、プラスチック製品をすべて避けて生活することは不可能だろう。それでも予防という観点から高田教授はこんなことを実践しているという。

「ペットボトルの飲料は10年以上口にしていません。容器をなるべく金属、ステンレス、ガラス製などにして食べる、飲むことが身を守ることにつながります。ちなみに私は、普段からティーバッグは使わず、直接茶葉を急須に入れてお湯を注いで緑茶を入れたり、紅茶はフレンチプレスを使って抽出しています」

 毎日摂取する飲料だけに、その影響に関して〝お茶を濁す〟わけにはいかない。

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