トランプ米国から売られた喧嘩を“我慢”した習近平中国の変節

 分断と対立が世界に広がろうとも、「米国第一」を最優先すると宣言したドナルド・トランプ大統領に世界は圧倒された。

 なかでも、これから制裁が強化されることが必至の中国は、「本気で関税60%を強行するのか」と固唾を飲んで見守った。中国経済が未曽有の不振に陥っている中、習近平中国はトランプの米国とどう闘い、14億国民に安心と安定を取り戻していくのだろうか。

 8年前、第1次トランプ政権の発足と同時に、米国政府は世界の最先端に並び始めた中国のIT産業に対し、知的財産権侵害を理由に制裁関税をかけた。

 これに対し、習近平中国は「売られた喧嘩は返り打ちにする」とばかりに、農産物などの関税で“倍返し”したため、米国からの小麦、大豆、トウモロコシ、牛肉などの輸入は大きく減少した。中国にとって米国は最も大きな輸出先であり、輸入先でもあったのだが、習近平中国はトランプ大統領の手口に乗って、売られた喧嘩を素直に買ってしまったのだ。

 しかも、この失敗を契機に習近平中国は国家戦略そのものである外交で、歴史的な「大失敗」をおかした。もともと、改革開放後の外交は中国が国家として一流になるまでは「才能を隠して、内に実力を蓄える」という意味の「韜光養晦」が基本だった。しかし、トランプ政権に対し「喧嘩上等!」とばかりに戦狼外交を展開し、それを米国だけでなく日本を含めたG7を中心とする先進国へも広げ、これらの国々との関係も著しく悪化させてしまった。

 中国にとって先進国は輸出市場というだけでなく、ハイテク技術を吸収できる源泉であり、最先端の半導体を輸入できる重要な国であった。だが習近平中国は、2025年までに最先端技術で先進国に並ぶという「中国製造25」を掲げ、毛沢東時代に先祖帰りしたかのように「自力更生」を口にしていた。それが今では、主要国との技術協力なくしては立ちゆかないことを自覚しており、だから第2次トランプ政権の発足にあたっては、習近平中国は見事と言っていいほどおとなしい。

 大統領就任の直前、習主席は電話会談でトランプ氏に最大限の賛辞を贈ったと言われている。だからだろうか、就任演説でトランプ大統領は中国を「侮る」ことも「威圧」する言葉も口にしなかったばかりか、「関税60%」の言葉もなかった。「チャイナ」と叫んだのは、僅か2回。コロナ運河を取り返すという演説に出ただけである。

 米中は再び喧嘩を始めるのか、見ものである。

(ジャーナリスト・団勇人)

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