5月12日現在、カブスの今永昇太は、開幕から負けなしの5勝0敗、防御率1.08で、MLB両リーグ通じて1位だ。
米国では早くもサイ・ヤング賞の有力候補として名前が挙がっているが、実は、今永の直球の平均球速は148キロで、これはメジャー投手の平均以下。それでも三振の山を築いている大きな理由が、強い回転がかかった「ライジング・ストレート」だといわれる。
MLBのデータ解析システム「スタットキャスト」によると、彼の今季の直球の平均回転数は2427(7日時点)。これはメジャーの左投手(2240)、右投手の平均(2299)をそれぞれ大きく上回り、リーグでもトップクラスだ。
他の日本人投手の今季の直球の平均回転数を調べたところ、2試合登板しただけで再び3Aに降格したものの、デビュー戦で2回をパーフェクトに抑えた上沢直之が、今永を上回る2435。他には、松井祐樹(パドレス)の2356、ダルビッシュ有(同)の2309、前田健太(タイガース)の2274、菊池雄星(ブルージェイズ)の2251、山本由伸(ドジャース)の2248という順になっている。
ちなみに大谷翔平(ドジャース)の昨シーズンの平均回転数は2260。一方、不振が続く3Aの藤波晋太郎は1979と、直球が武器のはずだが回転数は少ない。
「あくまで指標の1つですが、メジャーで活躍する日本人投手は、複数の球種の回転数がMLBの平均を上回る傾向にあります。今永の場合、左腕であることに加え、回転数の多い4シームのストレートはメジャーでも最高ランクの評価を得ています」(スポーツジャーナリスト)
ところで、過去の日本球界にも、今永のように「浮き上がって見える直球」を武器にしていた投手は何人もいた。
近年では、元阪神の藤川球児氏もその1人。代名詞となっていた「火の玉ストレート」の回転数は約2700だったと言われている。
だが、70~80年代に巨人のエースとして活躍した江川卓氏の全盛期の回転数は、藤川氏を上回っていた。その数、なんと2750。21年12月放送の「Going!Sports&News」(日本テレビ系)でソフトバンクに各種データを提供している「ライブリッツ」が映像解析を行った数値では、今永より320以上も回転数が多かったのだ
「滑りやすいMLB公式球のほうが回転数をかけにくく、球種によってはNPBより200~300回転少ないことも珍しくありません。ただ、それを割り引いても全盛期の江川氏のストレートは、メジャーでトップクラスだったということになります」(前出・ジャーナリスト)
同時期に日本でプレーした助っ人外国人の多くから「彼はメジャーでも通用する」と評された江川氏。「昭和の名投手」と言われる男には、勝利数や奪三振、防御率といった公的な成績以外にも、納得の数的根拠が存在したようだ。