ウクライナのゼレンスキー大統領顧問を務めるミハイロ・ポドリャク氏が12月1日、民放テレビ「24」に出演、これまでに死亡したウクライナ兵が、1万〜1万3000人いると発言した。
同氏の発言は、軍の裏付けによるものではないものの、ウクライナが死者数を明らかにすることは、極めて異例なことから、欧米諸国の間で波紋が広がった。軍事ジャーナリストが解説する。
「ゼレンスキー政権はこれまで、自軍の戦死者の情報公開に神経を使ってきました。というのも、ロシア軍に比べて戦力が劣る中で、多数の戦死者が伝えられれば、兵士や国民の士気が低下しかねないと考えていたからです。そのため、敵軍の戦死傷者については積極的に公表する一方、自国の死亡者を過少申告することが、情報戦の重要な要素でした。ところが、今回はあえて、死者が1万人を超えていることを発表した。裏を返せばこれはゼレンスキー氏が勝利を確信した証でもある、との見方があり、この発表をグッドニュースと報じている西側諸国メディアも多いのです」
とはいえ、11月には米軍制服組トップの統合参謀本部議長が、「侵攻開始以来、ロシアとウクライナでそれぞれ10万人の兵士が死傷している」と述べている。また、欧州委員会のライエン委員長もビデオ演説で、「ウクライナ兵10万人が殺された」と発言した。ただし、この発言はその後、「これは負傷者も含めた数字」と訂正されている。
「ロシア、ウクライナともに自軍の本当の死傷者数を明らかにしたがらないのは、その数が明らかになれば、戦闘継続可能かどうかが、敵側に知られてしまう恐れがあるからです。現状、ロシア兵の死亡状況は、欧米メディアにより定期的に伝えられていますが、ロシア側はこれを否定し、死者等の具体的な数はいっさい公表していません。ただ、ロシアは相手領土に侵攻しているので、基本的にその死者は兵士だけの数。一方、ウクライナ側の犠牲者は民間人も多くいます。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は8月22日に、ウクライナ国内の民間人死者が5587人と発表しており、その数は増え続けているはずです」(前出・軍事ジャーナリスト)
12月に入り、極寒の中で継続される戦争。民間人はもちろん、「本当の死傷者数」がこれ以上増えないことを祈るばかりだ。
(灯倫太郎)