軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏もその異能ぶりに目を見張る1人だ。
「ここまでの善戦ぶりからみても、戦時下でのリーダーシップが際立っているのは間違いない。確かに情報の発信がうまいが、それ以上に海外首脳と駆け引きをする能力が絶妙です」
侵攻直後、国外への一時避難説が流れる中、アメリカのバイデン大統領(80)と電話会談を行った際には、「必要なのは弾薬であり、(退避のための)乗り物ではない」と要求している。
「国民向けのスピーチもさることながら、むしろ海外要人向きの言葉に感心します。特に〝欲しいものリスト〟が明確で『これはウクライナだけではない世界の戦争だ。ロシアに勝つためにはこれが必要だ』など説得力のある言葉でハッキリと武器を要求している。それに、メディアの前で公然と武器を要求されれば、各国首脳も断りづらいはずです」(黒井氏)
ちなみに台風など一般的な自然災害の時でも、「助けて」だけではなく、具体的に必要なものを挙げることが、被害の抑制につながるというが、
「戦車が必要だ、ミサイルが欲しいと、兵器を具体的に要求することが有効でした。周辺国の首脳の胸に強いメッセージとして突き刺さるのです」(軍事評論家・井上和彦氏)
このストレートな交渉術により供給された、高機動ロケット砲「ハイマース」、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」などのハイテク兵器で戦いを有利に進めてきたと言えるのだ。
「最新の兵器を使うウクライナに対し、塹壕でゴロ寝しながら戦うロシア軍では現場の士気に差が出るのは間違いない。一方で、戦時下ではウクライナ軍もロシア兵に対し、残忍なことを行っているはず。ウクライナ側が被害を受けたという情報はドンドン出てくる一方で、士気を下げるようなマイナス情報はあまり伝わってこない。これは徹底した情報統制を行っているからです」(国際ジャーナリスト・山田敏弘氏)
ニュースではロシアによる民間施設や一般市民への攻撃は頻繁に伝えられるが、ウクライナ側の攻勢についてはあまり情報が出てこない。
「10月にロシア本土とクリミア半島を結ぶクリミア橋の爆破を行ったのはウクライナ軍の情報部門だと言われている。しかし、この件に関してウクライナはノーコメントを貫いている。他にプーチンの側近の娘が爆死した事件などに関しても情報が出ないため、西側も突っ込めない。つまり、自分たちは被害者であることをアピールしているのです」(山田氏)
能ある鷹を見極められなかったことが、プーチン大統領最大の過ちかもしれない。
*週刊アサヒ芸能12月1日号掲載