ロシア軍「ヘルソン撤退」で聞こえてきた「プーチン大敗北」の足音

 ロシア政府が、ウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソン市と、その周辺地域から部隊を撤退させると発表したのは9日のこと。今年2月に始まった軍事侵攻開始から8カ月。この突然の戦略的要衝からの撤退発表に、様々な憶測が広がっている。

 複数のメディア報道によれば、ショイグ国防相が撤退の決断を下した背景には、軍事侵攻の指揮を執っているスロビキン総司令官の提言が強く反映されていたという。

「9日に放送された現地のテレビニュースで、スロビキン氏は『部隊を撤退させてドニプロ川の東岸地域を防衛ラインとする決断は簡単なものではなかったが、これによって兵士たちの命と部隊の戦闘能力を守ることができる』とコメントしています。ヘルソン市は、プーチンが軍事侵攻を開始した直後に掌握した戦略上極めて重要な要衝で、ロシア軍がウクライナで掌握した唯一の州都。この撤退で同州の約4分の1の支配地域を失ったことになります。当然、侵攻作戦を主導したプーチンですから、権威失墜はまぬがれず、政権へのダメージも計り知れません」(ロシア問題に詳しいジャーナリスト)

 現地メディアの取材に答えたヘルソン州知事は、「ウクライナ軍が10日、ヘルソン州と西隣のミコライウ州の境界にある12の集落を解放した」として、「この日だけで占領された領土の260平方kmを解放し、勇敢な守備軍は戦線を7kmも前進させた」とコメントしている。

「ウクライナ軍内部には、撤退はロシアが市街戦を有利に戦うための『罠』であるとの声もあり、依然警戒を強めています。ただし、ロシアは20年の憲法改正で『領土割譲の禁止』を定めているため、今回の撤退でプーチン自らその禁を犯し、併合した領土をウクライナに返還した、つまり違法行為を犯したことにもなりかねませんからね。きわめて重大な敗北だと考えていいでしょうね」(同)

 へルソン州では9日、ロシア側「行政府」NO.2の地位にあったストレモウソフ氏が、交通事故で死亡。親露派をターゲットにしたウクライナのパルチザンによる犯行を指摘する声もあり、ロシア軍はウクライナ軍とパルチザンの両者を相手に戦わざるを得ない状況に追い込まれている。

 スロビキン総司令官は10日、へルソン市周辺から11万5000人の住民が退避を終えたとし、速やかに防衛陣を固める方針を示しているが、この撤退で、反攻のビッグチャンスを得たウクライナ軍。いよいよ「プーチン大敗北の足音」が聞こえてきた。

(灯倫太郎)

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