中国の不動産開発第2位「恒大集団」が「未曾有の危機」と発表して、「中国版リーマンショックか!」と世界の株式市場を震撼させたのは昨年9月のこと。
しかし、習近平政府の総力を挙げた“破綻隠し”が功を奏し、中国の不動産問題は国内の、さらに地方の問題として処理されてきた。
中国の不動産のシステムは、地方政府が土地使用権を開発業者に売却し、デベロッパーは銀行に借金をしてマンションを建て、その販売利益をさらに再投資するという成長循環を基本に肥大化してきた。
その循環が壊れると、まず小さな地方のデベロッパーが倒れ、融資した地方の金融機関の債務が焦げ付く。今年7月には河南省鄭州で、預金引き出しがストップし、大規模な抗議デモと言う形で表面化している。
中国政府はこの時、預金支払いを政府が肩代わりすることで騒擾を収めた。このように負債を抱えた企業は中国政府が救済して決定的なデフォルトを回避して、地方の問題として処理してきたのである。
だが、中国の不動産バブルはすでに崩壊しかかっている。そして世界の市場は、10月16日から開催される5年に1度の共産党大会後に「激変が始まる」と見ているのだ。
これまで習近平主席は、共産党の不文律となっている5年2期という慣例を破って向こう5年間の任期を担うべく、慎重に党運営を進めてきた。秋の共産党大会が終了するまでは、コロナ問題、不動産問題、ウイグル問題、台湾問題などに対しても、大事に至らないようにやり過ごすことを最も重要な方針としてきた。
逆に言えば、共産党大会終了後に、これまで棚上げしてきた問題が一気に表出する可能性が高いのだ。
中でも、最も不安視されているのが中国最大の不動産開発会社「碧桂園集団」の債務問題である。仮に「碧桂園集団」が破綻に追いこまれたら、その影響は「恒大集団」の比ではない。想像を絶するような事態となるだろう。
たとえば、恒大集団の実質破綻により、すでに関連産業の鉄鋼、セメント、ガラス業界は大ダメージを受けているが、さらに碧桂園が倒れることになれば、
恒大集団の実質破綻は即刻、全中国の不動産ビジネスに波及した。恒大のようにサッカークラブや、EV自動車メーカーへ手を出すこともなく不動産開発一本できた「碧桂園集団」も、恒大の実質破綻の影響から逃れられなかった。
碧桂園の建築中のマンションは約20兆円分あるといわれ、これは本来、資産に計上されるものだが、恒大の問題が表面化して以降、建築に次々にブレーキがかかり、建設途中のまま放置されていて、実質的に負債に変わっていると考えるべきだ。
なぜこうなるかというと、中国では、マンションを購入するとき設計図の段階で契約し、その瞬間からローンの支払いが始まる仕組みになっている。途中で開発業者の資金が枯渇し建築が止まれば、契約者はローンの支払いを拒むことになる。未完成なら契約者に返却しなければならないが、それは不可能だ。
現在、中国で起こっているマンションと地方銀行の騒動は、マンションの建設がストップしていることに契約者が危機を抱き、支払いを停止したことによるものだ。
「碧桂園集団」は7月に新株を28億3000万香港㌦(約490億円)発行して当面の資金繰りを回避したとされる。また8月に入って、国営の金融保証会社が、碧桂園などが発行した国内債を保証することが決まり、危機は去ったかの如く伝えられているが、問題は共産党大会後、習近平政府が問題山積するビジネスにどのように対応するかである。
ある外資系証券会社の幹部は、こう説明する。
「習近平主席は共同富裕を唱える裏側で、中国の不動産ビジネスの使命は終わったと考えているのではないか」
(ジャーナリスト・団勇人)