またもや、新型コロナウイルスの起源を巡り、米中間でのすったもんだ論争が再燃の様相を呈してきた。
2019年末から20年初頭にかけ、中国・武漢市で感染が確認され、その後瞬く間に世界に広がり、累計552万人の死者を出すことになった新型コロナウイルス。感染源については武漢である可能性が高いものの、それが食材として動物を扱う武漢市場から広がったものなのか、国内有数のウィルス研究施設「中国科学院武漢ウイルス研究所」から流出したものなのかを巡り、米中の間で激しい論争が交わされてきた。
ただ、前バイデン政権時代には、発生源についての意見が定まっておらず、米連邦捜査局(FBI)と米エネルギー省は、研究所からの流出が濃厚と主張。一方、米疾病対策センター(CDC)は発生源はコウモリだった指摘。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)、疾病対策センター(CDC)、国家情報会議(NIC)いずれも、自然界で発生し、たぬきやコウモリなどの動物を介して人間に感染した可能性が高いとの見解を示していた。
ところが、トランプ氏が大統領に就任後の1月25日、米中央情報局(CIA)の広報担当者が「CIAは入手可能な一連の報告に基づき、自然の起源(動物を介した説)よりも研究に関連した起源(流出説)の可能性が高いと評価する」とする声明を発表したのだ。
「バイデン前政権時のバーンズ前長官は、CIAとしても数年間にわたり新型コロナの起源について情報収集したものの、結論は出せないと説明してきました。しかし、新政権でCIA長官に就いたラトクリフ氏は、米保守系ニュースサイトのインタビューに対し、『私は、私たちの情報、科学、そして常識のすべてが新型コロナの起源が武漢ウイルス研究所からの流出を示していると確信している』と断言。真っ先に取り組む優先事項の一つが新型コロナのパンデミックの起源を公に評価することだと語っています。つまり今回の声明は、トランプ大統領のもと、今後CIAとしては自然界発生説ではなく、あくまでも研究所流出説を念頭にした調査へ舵を切っていくと宣言したということ。現状、CIAがどこまで新しい情報を入手しているかどうかはわかりませんが、今後は科学分野に政治が全面介入していくことになるはずです」(外信部記者)
むろん、この発表に中国が黙っているはずもなく、さっそくワシントンにある中国大使館の報道担当者が声明を発表。CIAの報告は証拠に欠け、パンデミックの起源を政治的に利用したものだとして、SNSに《新型コロナウイルスの起源は複雑な科学的問題だ。政治家が判断するのではなく、科学者や専門家が厳密かつ綿密な科学的研究を通じ、答えを見つけるべきだ》と、CIAとアメリカ政府の姿勢を真っ向から批判した。
そんな騒動から1カ月あまり。突如、問題となっていた武漢ウイルス研究所から明らかにされたのが、コウモリから新型コロナに似た新ウイルスが検出されたという研究発表だった。
これは2月18日に、生命分野の学術誌「セル」に掲載された、同研究所研究員の論文に掲載されたもので、
「内容はヒトに感染する可能性があるコウモリコロナウイルス(HKU5-CoV-2)が発見されたというもの。同ウイルスは新型コロナウイルスを誘発するウイルスと同様、ヒト受容体を通じて浸透し、動物を介して人に感染する危険があるといいます。ただ、なぜこのタイミングで自然界に棲息するコウモリから新型コロナウイルスが発見されたことを公表したのか。専門家の中には、CIAの指摘による世界的批判の再燃を懸念した中国政府が自然発生説を強調するため、あえて発表させたのではないかとの声もあります」(同)
いずれにせよ、CIAが本腰を入れたとなると、水面下での攻防戦が激しさを増すことになるだろう。闇に包まれた起源の真相が解明される日は来るのだろうか。
(灯倫太郎)