2015年にいったん否決されて捲土重来を期して再び行われた「大阪都構想」の住民投票だったが、11月1日の投開票の結果は賛成派約67万6000・反対派約69万3000でまたも否決された。
「そもそも『都構想』は、橋下徹さんが大阪府知事だった時に水道事業を巡って当時、大阪市長だった平松邦夫さんと対立したことから提唱されたものです。そしてその実現を目指して、2010年に橋下さんと松井さんら気心が合った人たちで地域政党の『大阪維新の会』が結党されました。これ以来、維新が大阪を中心に勢力を拡大、『日本維新の会』を立ち上げて全国区の党まで勢力を拡大して今に至ります」(大阪市政記者)
つまりは都構想地域政党の「大阪維新の会」の面目は丸潰れで、党代表の松井一郎・大阪市長は残り2年半の市長の任期を全うしてからの政界引退を表明した。2度目の否決とあっては、さすがに大阪市民の民意は「都構想」には賛成しかねると判断する他ないだろう。
だから、一度は否決されたものにこだわり続け、大阪市政をひきずり続けて来たことは問われねばならない。特に嘘や誤魔化しが先行していたことだ。
「水道事業で府と市が対立したように、様々な事業の権限が府と市で併存していた2重行政の解消が構想の根本理由ですが、橋下氏が問題を提唱してから10年、政治の場で様々な話し合いが行われました。だから、松井さんも2重行政はもはや存在しないとまで発言する始末。じゃあ、何で推進するの?って話なんですが」(前出・大阪市政記者)
さらに驚くのは、維新側は都構想に関して誤った情報をバラまいていたことだ。普段は東京で取材する政治部記者も驚き交じりにこう話す。
「今回の住民投票は大阪市を廃止して、今ある24の行政区を4つの特別区に統廃合するプランです。大阪府を『大阪都』にするには地方自治法の改正を国会で議論する必要があります。ところが都構想を話題にしたテレビ討論番組を見ていた時です。賛成派として出演していた日本維新の幹事長の馬場信幸さんが『大阪都になれば』と連呼していたんです。だからビックリして大阪の同僚に電話してみたんです。そうしたら維新の議員は『都構想になればこうなる』といった、日本語になっていない説明をしていると言うんです」
投票率は62・35%で、前回を4ポイント下回って盛り上がりにも欠けた。賛成派・反対派も大阪以外から応援に駆け付けたのは、前回は反対派だったが今回は賛成に寝返った公明党の山口那津男代表くらい。前回の2015年の敗北後、12月の大阪市長の任期満了をもって政界を引退した橋下徹氏もツイッターやテレビでの発言の側面応援のみで塩対応だったと言える。
「橋下さんは政治家引退のけじめの意味からか、維新と連携するといった政治活動は一貫して行っていません。ただ提唱者ですからね。もっと積極的にプッシュしてもとは思いますね。前回の住民投票の直前に、都構想の経済効果は4000億円と言っていたのを最後は1億円と訂正せざるを得なくなりましたから、その苦い記憶があるのでは? と勘繰ってしまいます。また公明党の市議があまりに静かだったのもとても気になりました。党の方針の一方、支持者レベルでは反対派の意見が根強かったのだと思います」(前出・大阪市政記者)
笛吹けど踊らず。維新が一度振り上げた拳の落としどころが見当たらないまま住民投票が強行された印象だけが強く残った。
(猫間滋)