山奥などの人も建物も見かけないところにあると思われがちな“秘境駅”。そんな場所に多く存在するのは事実だが、こうした概念を覆す駅が川崎市にある。JR鶴見線の大川駅だ。
海辺の工業地帯でも奥まったエリアに位置する同駅の周辺は、ほぼすべての建物が工場や倉庫。マンションやアパート、戸建て住宅はまったくと言っていいほど存在しない。
そうした特殊な立地ゆえ、利用客はほぼ全員が工場などに勤める労働者だ。そのため、列車が到着するのは7〜8時台と17〜20時台の1日9本と変則的。日中に発着する列車はなく、工場が稼働しない土日や祝日には1日3本までに減便される。休日に限っていえば、文句なしの“首都圏で最も本数の少ない駅”だ。
しかも、大川駅で驚かされるのはその外観。剥げた板張りの駅舎は「掘っ立て小屋」と表現する者もいるほどで、構内には自動券売機もない。田舎の駅なら珍しくないが、大川駅のある川崎市は人口150万人を超す大都市だ。
駅の周りには建物も多いのにローカル線並みに列車は少なく、駅舎は地方の秘境駅よりボロボロかもしれない。このギャップが大川駅の魅力であり、コアな鉄道ファンの間では人気だという。
ちなみに鶴見線はほかにも個性的な駅が盛りだくさん。海のすぐ横にホームがあり、隣接する工場の関係者以外は改札から出ることができない海芝浦駅、昭和初期に建てられた古い高架駅で外壁には戦時中に受けた米軍機の機銃掃射の痕がそのまま残っている国道駅、駅やその周辺に数多くの猫が住み着いている扇町駅など実にさまざま。そのため、週末などには駅巡りをする人の姿もよく見かける。
ちなみに大川駅の隣の武蔵白石駅までは歩いて15分ほど。こちらは発着する列車も多いため、週末でもアクセスは比較的簡単だ。
夕方以降は鶴見線沿線の工場がライトアップされて、日中とはまた違った雰囲気を漂わせている。なお、休日の朝8時台に到着するダイヤを調べたところ、東京駅から大川駅まではわずか48分。都心からも近いこともあり、気軽に訪れることができるのでオススメだ。
(高島昌俊)