廃駅の危機を乗り越え…ヒグマ出没地帯の「秘境駅」がファンに愛される理由

 北海道の旭川駅〜稚内駅間の259.4キロを結ぶ、日本最北の鉄道路線の宗谷本線。沿線には全53駅(※20年10月現在)あるが、札幌に次ぐ人口を誇る旭川市を除くと、沿線は道内でも有数の過疎地帯だ。

 JR北海道は沿線の半数を上回る29駅の廃止を求めており、うち13駅が地元自治体と合意。来年3月にも廃駅となる見通しだ。だが、なかには秘境駅ながら存続が濃厚とされている駅もある。そのひとつが糠南(ぬかなん)駅だ。

 この駅は秘境駅が多い宗谷本線でも鉄道ファンの知名度は特に高い。実は、家庭用の物置を待合室に使用している“物置駅舎”の鉄道駅なのだ。

 9月下旬某日に筆者も同駅を訪れたが、ホームは1両分ほどの長さしかなく、しかも底が抜けそうな板張り。駅周辺も含めて見渡す限り建物はまったく見当たらず、あるのはホームに併設された物置だけ。予備知識がなければ用具入れだと思ってスルーしていただろう。

 開けて中に入ると、壁には時刻表や周辺駅の路線図兼運賃表。しかも、ビールケースにクッションを敷いた簡易的なものだが、イスらしきモノも2人分用意されている。

だが、気になったのはそこに掲示されていた「熊出没マップ」。地元の駐在所がまとめたものだと思われるが、わずか1か月足らずの間で10数件のヒグマ目撃情報がマップに記されていたのだ。

 当初は隣駅まで2キロ弱と比較的近かったので歩いて移動するつもりだったが、この日はあいにくの雨。そもそも人はおろか車すらまったく通らない場所だったので、さすがに熊多発地帯と聞いてフラフラ歩く勇気はない。

 しかし、この駅に停車する列車は1日上下線3本ずつの計6本。次の列車まで2時間以上待たなければならず、しかも困ったことに糠南駅にはトイレがない。案内されているのは約2キロも離れた隣駅近くの公共施設。一方では熊多発で注意を促しているのに……。

 それでもこの駅には熱狂的なリピーターも多く、毎年12月には鉄道ファン有志によるクリスマスパーティも開催(※今年は10月上旬時点では未定)。熊出没や列車が極端に少ないうえ、物置駅舎には暖房もなく冬場の訪問は正直オススメできない。それでも、多くの秘境駅マニアをひきつけてやまない。

(高島昌俊)

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