“大胃王動画”を続々削除!「大食いコンテンツ」大粛清に乗り出す中国の腹案

「食べ物を粗末にするな」

 日本では聞き慣れた至極ごもっともな言葉だが、この指示を出したのは中国の習近平・国家主席だ。

 この大号令がかかった8月11日以降、国営放送・CCTVは、自国のテレビや動画サイトで見られる「大胃王」(大食い番組)の弊害を追及。大食いによって大量の「食品ロス」が出ていることを批判した。食品ロスとは、本来食べられるはずの食品が無駄に廃棄されてしまうことだ。

 こうした政府からのプレッシャーを受けて、国内のコンテンツ動画サイトからは大食い動画がこぞって削除されるという事態が起きた。

 このニュースを受け、日本のネット上では《こんなことにまで平気で情報統制や規制をかける中国が怖い》《国のトップの発言ひとつで動画が削除されるなんて信じられない》《食べ物を粗末にするなっていうのは正論だと思うがそこまで規制する話か?》などと驚きの声が上がっている。

 もともと、中国の食文化では、相手をもてなす際には食べきれないほどの量の料理を振る舞い、食べる側も全部食べ切らずに少しだけ残すことがマナーとされてきた。日本とは異なる食文化を持つ中国で、なぜ今になって「大食い規制」が始まったのだろうか。

「まず理由として考えられるのは、6月に長江流域で発生した大規模な豪雨災害の影響で食料不足が懸念されているためです。中国政府は国内の食糧生産量は充分だと説明していますが、それは建前にすぎないと指摘する声もあります。次に米中対立の影響です。両国の貿易戦争では、互いの農産物や食肉類に“報復関税”をかけ合うことも珍しくないため、対立が激化すれば食糧難に直面する可能性もゼロではありません」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 こうした食料安全保障上の理由以外に、大食い規制は世界における中国のイメージ戦略の狙いもあるという。

「経済や軍事面では超大国へと成長した中国ですが、国内に目を向けると人権や環境、衛生などの問題が山積みで、世界からはまだ一流国として扱われていないのが現状です。中国が世界から認められるリーダーになるためには、こうした悪いイメージの払拭が不可欠。そこでまず目をつけたのが世界中で問題になっている食品ロスの改革です。人口1人あたりベースで見た時に、先進国と比べて中国はまだ食品ロスが少ないため、勝機のあるこの分野に注力して模範国となり、国際社会におけるプレゼンス(存在感)を高めようとしているのでしょう」(前述のジャーナリスト)

 そして、食品ロス問題の模範国となるために、中国は「日本潰し」を仕掛けるつもりだという。

「かつてケニアの女性環境保護活動家ワンガリ・マータイによって、日本語の『MOTTAINAI』という言葉が広く世界に浸透しました。こうしたこともあり、一見すると日本の食品ロス対策は万全かのように思われますが、実際には1人あたりの年間食品廃棄物量はアジアでワーストです。エコへの配慮という面でも、日本ではいまだに大食い番組が放送され、飲食店で料理を残す人や学校の給食を残す生徒も多い。その矛盾に中国当局も当然気づいています」(前出・ジャーナリスト)

 たしかに、現在の日本のテレビ界では「デカ盛り」や「激辛」といった、常人では完食が困難なメニューがしきりにオンエアされている。

「そこで中国は自国の食習慣や食事マナーを改善し、日本のMOTTAINAI精神を奪ってお家芸にした後、ゆくゆくは日本のネガキャンを展開するつもりのようです。『日本人と比べて中国人の民度はこれほど高い』と世界に知らしめれば、中国は真の一流先進国として認められる。現に最近の中国では、マナー教室でテーブルマナーを身につける中国人も増えてきているようです。新たなフェーズに移行しようとしている中国にとって、日本は恰好のスケープゴートというわけです」(前出・ジャーナリスト)

 かつて爆買いが流行していた頃は、日本において「混雑時に食事を終えてもなかなか席を立たない」「バイキングで順番を無視する」「備え付けの調味料を持ち帰る」といった迷惑行為が報告された一部の中国人たち。そんな彼らとの立場が逆転する日はやってくるのだろうか。

(道明寺さとし)

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