大相撲「無観客」決定までの茶番裏(上)NHKも「物言い」がつけられない

 いまだ終息の気配が見えない新型ウイルスの感染が拡大する中、大相撲春場所の「無観客開催」を決定した日本相撲協会。「本場所を楽しみにしているファンのために」と大義名分を掲げているが、その裏には観客不在の思惑が見え隠れするのだ。

 角界関係者が声を潜めて言う。

「そもそも相撲協会は開催ありきでヤル気満々だった。ところが、政府の自粛要請や各スポーツ団体の中止・延期の発表という横ヤリが入り、開催の是非について検討し直す必要が出てきた。正直言えば、『中止』を表立って公言する親方衆は一人もいなかったね」

 ギリギリの選択と言われた3月1日の臨時理事会でも、2時間半に及ぶ「無観客開催」か「中止」かの二択の協議自体が「茶番」だったというのだ。角界関係者が続ける。

「まぁ、最初から無観客開催に向けての地ならしだよ。中止の可能性を提言する親方もいたけど、あくまでディベートの体を成すために発言したにすぎない。さらにコロナの専門家を会議に交えて意思決定することで、ある種のお墨付きを世間にアピールできた」

 理事会には、感染症学の第一人者である賀来満夫・東北医科薬科大特任教授が出席し、無観客開催を追認。リスク対策よりもメンツを優先した相撲協会に、1場所5億円とも言われる放映権料を支払っている「皆様のNHK」でさえも「物言い」をつけることができなかったのだ。

「放映権を持つNHKも相撲協会を止めるすべはなし。ドル箱コンテンツになった相撲中継を手放したくない。もしも、力士からコロナ感染者が出たらNHKも叩かれかねないのにね」(角界関係者)

 過去に例のない形で開催する春場所だが、そこには「お米」の問題が重くのしかかる。スポーツ紙デスクが解説する。

「春場所の収益は大赤字確実です。NHKからの放映権料は確保したものの、販売後数時間で完売した前売りチケットの払い戻しが約10億円。会場を運営する経費が発生しない分、『中止』したほうが傷は浅かったかもしれません」

 それでも空白期間を設けられない事情が相撲協会にはあるようで、

「満員御礼が続く相撲人気を途切れさせたくない思惑です。若貴ブームの終焉とともに相撲人気は下火になった。長く続いた冬の時代を知る協会員の間では、常に世の中の相撲離れが危機感としてある。今回出した赤字も今の人気が続けば簡単に取り戻せると踏んでいる」(角界関係者)

 朝乃山や炎鵬など日本人力士の活躍で、往時の勢いを取り戻した相撲人気に水を差したくないというのが、相撲協会の全会一致の意向だというのだ。

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