1兆5000億円が泡と消えても巨大投資を辞めない孫正義氏の「自信の根拠」

 10兆円もの巨大な「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」を通じて、世界中でシェアオフィスを展開する「WeWork(ウィーワーク)」に1兆円を投じたもののこれが大コケで、追加で1兆円もの追加出費を余儀なくされたことで注目された中、行われた11月6日のソフトバンクGの第2四半期決算。発表の場では、孫正義会長兼社長自らが、

「今回の決算の発表内容はボロボロだ。真っ赤っかの大赤字。四半期でこれだけの大赤字を出したのは創業以来で、まさに台風、大嵐のような状況だ」

 というように惨憺たるものだった。

「正直に、半ば開き直って言うしかなかったんでしょう。売上高は前年同期と同じ約4兆6500億円だったものの、本業の儲けの営業利益が155億円の赤字。前年同期が1兆4200億円の黒字だったので、まるっと1兆5000億円近い利益が消えたのと同様ですからね」(経済ジャーナリスト)

 こうした結果は、予定されていたIPOを撤回せざるを得なくなった騒動以後ほぼ見えていたのだが、注目されるのは孫社長が新たに組成すると公言していたSVF第2号ファンドを作るかどうか。

 これに対し孫社長は、
 
「おおむね同程度の規模で、予定通りスタートする」

 と明言、強気の姿勢を崩さなかったのだ。

「SVFはファンド名に『ビジョン』と入っているように、今後のAI時代に先駆けて、今後伸びるであろうスタートアップ企業にしたたかに投資して後に巨大なリターンを得ようというファンド。簡単に言えば、当初は20億円の投資に過ぎなかった中国のアリババ集団が10兆円に化けた。そんな金の卵発掘プロジェクトのようなものです」(経済ジャーナリスト)

 投資には当然大きなリスクを伴い、今回はリスクをそのまま被った形だが、予定通り発掘プロジェクトは継続するという。この強気と度胸はどこから来るのだろうか。

 孫氏の強気な経営スタンスを垣間見るに好適なのが、『孫正義 危機克服の極意』という本だ。これは2011年に孫氏が後継者の発掘・育成のために開校した「ソフトバンク・アカデミア」で行った講義をまとめたもの。

 その中で孫氏は「先進的なジョイントベンチャーが、深刻な業績不振に陥った」「ITバブルの崩壊により、自社の時価総額が100分の1にまで落ち込んだ」「2兆円を投じて買収した会社に『負け癖』が染みついてしまっている」…(目次より)などと、自らが危機に直面した時の経験を振り返りながら、こう述べている。

「何か欠陥が見つかった。それを見つからないようにするか、なるべく発表を遅らせるか……トップが説明に真っ先に行く、記者会見を真っ先に、一刻も早く行う。そして、質問が途絶えるくらいまで洗いざらい行う」

 今回「ボロボロ」と表現した率直さにもその姿勢は表れている。
 
 また、会社とバッシングの関係を、ハンターとライオンの関係に例えて、ライオンに遭遇したハンターが怖くなって背中を向けたら襲われるだけだから、勇気をもってライオンに立ち向かうべきだと言う。

「どんな会社でも、何かのミスとか事故とか事件とか、必ず起きるものだと思ってください。それが起きたときにどう対応するかが物事の大きな分かれ道になる」(同書)

 ライオン相手に素手で勝負してきた自負が窺える。ということは、やはり孫氏は今後も、周囲の心配をよそに我が道を行くというのだろう。だが同じ修羅場でも、今回はウィーワーク騒動に引きずり込まれたとはいえ、それも孫氏の投資判断が自ら招いたものと言えなくもない。
 
 第2号ファンドがライオンに化けなければいいのだが。

(猫間滋)

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