6月、中国海軍の空母「遼寧」と「山東」が、小笠原諸島やグアムを結ぶ「第2列島線」を初めて越えて太平洋で同時展開し、日本や米国で大きな波紋を呼んでいる。
第2列島線は、伊豆諸島、硫黄島、小笠原諸島、グアムを結ぶ安全保障上の防衛ラインで、中国はこれを有事における米軍の接近を阻止する戦略的ラインと位置づけている。
専門家の間でも、この展開が台湾有事を想定した実践的訓練であるとの見方が強い。中国は、台湾侵攻の際に米軍の空母打撃群が第1列島線(九州・沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ線)や第2列島線を越えて接近することを阻止する「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略を推進している。今回の訓練では、遼寧を米空母役に見立て、山東がこれを阻止するシナリオが想定された可能性がある。
米軍は、1996年の台湾海峡危機や2017年の北朝鮮危機で空母を複数展開し、強力な抑止力を示してきた。 しかし、中国は遼寧、山東に加え、24年に航海試験中の福建など、空母戦力を急速に拡充。30年代までに5~6隻の空母保有を目指すとされ、米軍の太平洋支配に対抗する姿勢を鮮明にしている。
日本にとっても、この動きは無視できない脅威だ。中国空母が南鳥島周辺のEEZ内で活動したことは、日本の経済安全保障やシーレーン防衛に影響を及ぼす。日本政府は中国側に抗議したが、中国は通常の訓練と主張。 この状況は、日米同盟の連携強化と、太平洋での抑止力維持の必要性を改めて浮き彫りにしている。
中国の空母戦力拡大は、単なる軍事力の誇示にとどまらず、台湾有事での戦略的優位性を確保する試みだ。日本は、情報収集・警戒監視の強化に加え、日米豪などによる共同演習を通じて対抗策を講じる必要がある。一方、偶発的衝突のリスクを抑えるための外交努力も急務だ。
(北島豊)