トランプ・ゼレンスキー会談決裂で中国が狙う「地政学的チャンス」

 2月28日にホワイトハウスで行われたトランプ米大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の会談は異例の決裂に終わり、国際社会に衝撃を与えた。

 この会談ではウクライナの鉱物資源の権益に関する協定の署名を予定していたが、ロシアへの対応や安全保障を巡る激しい口論により物別れに終わり、協定の締結も共同記者会見も中止となった。この出来事は両国の関係の亀裂を深め停戦交渉の不透明感を増す一方で、中国がどのようにこれを捉え、何を狙っているのかという視点が注目される。中国はこの会談の決裂を地政学的な機会と捉えつつ、自国の戦略的利益を最大化しようとしている可能性が高い。

 米国とウクライナの対立は、中国にとって西側陣営の分断を示す象徴的な出来事と映るだろう。トランプ政権がウクライナへの支援に条件を付け、ロシアとの融和姿勢を示唆する中、ゼレンスキーが安全の保証を求める姿勢を崩さなかったことで、西側内部の結束が揺らいでいることが明らかになった。中国は、伝統的に欧米の結束を弱める状況を歓迎してきた。ロシアとウクライナの戦争が続く中、米国が主導するNATOや西側同盟の対応が一枚岩でないことは、中国にとって欧米への対抗軸を強化する好機となる。特に、トランプ大統領が米国第一を掲げウクライナ支援に消極的な姿勢を見せたことは、中国が欧州やグローバルサウスでの影響力を拡大する余地を広げる。

 そして、中国がこの状況から狙う一つは、ロシアとの関係強化を通じた地政学的優位性の確保だ。ロシアは中国にとって重要な戦略的パートナーであり、エネルギー供給や軍事協力で結びつきが深い。トランプ大統領がウクライナ支援を減らし、ロシアとの和平を優先する姿勢を示せば、ロシアは西側からの圧力が軽減し中国との連携をさらに深める可能性がある。これにより、中国はユーラシア大陸での影響力を拡大させ、米国が主導する国際秩序に対抗する軸を強化できる。

 また、ウクライナの鉱物資源、特にレアアースが米国の手に渡らない状況が続けば、中国が世界のレアアース市場での支配的地位を維持する上で有利に働く。中国は既にレアアースの生産と供給で圧倒的なシェアを持ち、米国がウクライナとの協定でこれに対抗しようとする動きを牽制できる。

 さらに、中国は欧州との関係強化を狙っている可能性がある。会談決裂後、ドイツやフランスなど欧州諸国がゼレンスキーを支持する姿勢を明確にした一方、米国との溝が深まったことは、欧州が独自の安全保障政策を模索するきっかけとなり得る。中国は欧州が米国依存から脱却しつつある状況を利用し、経済的な結びつきを深めようとするだろう。例えば、一帯一路構想を通じたインフラ投資や貿易協定の拡大を進め、欧州市場での足場を固めることが考えられる。ウクライナ問題で米国が後退すれば、欧州は中国との協力を通じてロシアへの対抗策を模索する可能性もあり、中国にとっては外交的チャンスとなる。

 一方で、中国はリスクも意識している。トランプ政権がロシア寄りの政策を進めるとしても、米国と中国の対立構造が変わるわけではない。むしろ、トランプ大統領が中国を経済的・軍事的な脅威と見なす姿勢を強める可能性があり、ウクライナ問題が米中間の新たな火種となる危険もある。中国は、米国がウクライナから手を引くことで生じた余力を、アジア太平洋地域での対中圧力強化に振り向けることを警戒しているだろう。

 結論として、習近平中国はトランプ・ゼレンスキー会談の決裂を西側陣営の分裂とロシアとの連携強化の機会と捉えつつ、欧州やウクライナでの影響力拡大を狙っている。しかし、米国の動向を見極めつつ、自国へのリスクを最小限に抑える戦略を取るだろう。この状況下で、中国は地政学的な綱渡りを続けながら、長期的な利益を追求する姿勢を崩さないと予測される。

(北島豊)

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