【ルポ】死ぬまで楽しむ「生活保護」のリアル実態(2)「130円のり弁」の中身

 コンビニ前の宴を終えると1人で「玉姫公園」に移動。漫画「あしたのジョー」(講談社)で主人公の矢吹丈と丹下段平が出会った“聖地”で、日光浴をしていたのはシゲルさん(仮名)=70代男性=だ。曰く「炊き出しマスター」らしい。

 山谷周辺では生活困窮者向けに「炊き出し」が定期的に開催されているが、

「時期によりけりだけど、現在進行形だと月曜日の夜に『城北労働・福祉センター』でハンバーグ弁当や野菜炒め弁当、火曜日の朝には、その近くの教会でごはんに豚汁みたいなのをかけたぶっかけ飯、水曜日の朝にも同じ場所で弁当が配給される。土曜日は白鬚橋でカレーライスの炊き出しがある。あと、(生活)保護だと都営の交通機関が無料になる乗車券がもらえるから、上野や新宿にも繰り出すよ。明日も11時に白鬚橋でコロッケ弁当の炊き出しがあるらしい。来てみる?」

 と、シゲルさんに提案されるままに翌日10時に橋の手前にある「白鬚橋西詰交差点」で待ち合わせ。しかし、2人で炊き出し場所に向かうも、人っ子一人おらず‥‥。

「うわ! ガセられた。普段なら、1時間前には順番待ちの段ボールや空き缶が並んでいるのに‥‥。嘘の情報をつかまされちまった。こうなったら、飲んで憂さを晴らすしかないな」(シゲルさん)

 ガッカリする間もなく市街地にUターン。大先輩の誘導で「いろは会商店街」にある10時オープンの大衆酒場の暖簾をくぐった。

 メニューを見ると瓶ビール600円、目玉焼き500円、納豆300円といささか強気の値段設定が気になるところ。すかさず手持ちを確認していると、

「そんなに頼まなくても平気だから! 1~2杯で3~4時間は居られる。常連さんからボトルキープの焼酎を御馳走になることもしばしば。この店だけじゃなく、山谷のスナックも午前中からやっているとこばかり。カラオケ代は200円かかるけど、安くてずっと居られるんだ」(シゲルさん)

 結局、昼前に入店して14時過ぎまで常連客と他愛のないトークを楽しんだ。

「よ~し! 最後に〆に行くぞ!」

 と店を出るなり「泪橋交差点」方面へ。10分ほど歩いた先にある教会の前に10人前後の行列ができていた。

「ここは『まりや食堂』っていう激安弁当屋。15時~17時しかやっていないけどドヤの胃袋を支えているといっても過言ではないんだ」(シゲルさん)

 店頭にある立て看板には、「たまごやき弁当 160円」「のり弁当 130円」と表記。その他にも魚のオカズを入れた300円~390円の弁当もラインナップされていた。

「130円ののり弁当でも日替わりで大根や鶏の煮物が付いてくる。米飯もコンビニのおにぎり3個分は詰められていると思う」(シゲルさん)

 行列の中には前日に酒を酌み交わしたカズオさんの姿もあった。声をかけてみると、

「今日は労働をしたから350円のシャケ弁当で贅沢するのさ。え、働いているのかって? 『上野職安玉姫労働出張所』で紹介された掃除の仕事で上野公園まで行っていたんだ。“ダンボール手帳”と呼ばれる求職受付票を持っていれば、月に3回ぐらい仕事ができて、1回ごとに約8000円稼げる。収入の分だけ保護費から引かれちゃってあまり意味がないんだけど、たまには世の中に貢献しないとね」

 稼いでも支給額が減るとは働き損ではないか。國友氏が補足説明する。

「あまり知られていませんが、月あたり1万5000円までの収入は基礎控除が適用される仕組みです。つまり、1万5000円を超えた場合、その分が生活保護費から引かれることになります」

 もっとも、足がつかない稼ぎ方がないこともない。貧困をテーマに取材を続けるルポライターの村田らむ氏が耳打ちする。

「家事代行を生業にしている生活保護の女性がいます。知り合いのツテでたまに受注して1回ごとに2万円~3万円を稼いでいます。あと、筆で書いた文字を公園で1枚500円~1000円で販売したり、転売屋の中国人に雇われて行列に並んで5000円のギャラを得たり、隠れて小遣い稼ぎする人はいくらでもいます。ただし、何をやるにも現金手渡しがマストです」

 たまに働くのも一興か。お弁当を買うなり、2人と別れた。令和の山谷には穏やかな時間がゆっくり流れていた。

(つづく)

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