消えた生活保護費150億円を追う(2)職員が横領するケースも発生

 不正な詐取は受給者だけにとどまらない。

 昨年3月上旬、福祉行政を震撼させる出来事があった。東京都北区の職員による横領事件が発覚したのだ。それから4カ月後に詐欺容疑で逮捕、起訴されたのは小林昇元被告(46)。

 起訴の概要は、「平成29年4月から同年10月までの間、すでに死亡した3名分の生活保護費、計219万9240円の交付を受けた(詐欺罪)」というもの。

 小林元被告は、自身が担当する受給者が死亡したにもかかわらず、本人が生存しているかのように装い、

「本人が取りに来れないので代わりに受け取ります」

 などと給付係の職員を欺いて生活保護費を不正に受領していたのだ。また、起訴状にある3名分の他にも、死亡または失踪した複数人の保護費を同様の手口で受領していたという。

 昨年9月21日に行われた初公判の罪状認否において小林元被告は、

「不正受領は間違いありませんが、保護費をダマし取ろうと思ったわけではありません」

 と述べた。

 だが検察側は、小林元被告が不正に受領した保護費を使って、風俗やキャバクラなどの遊興費や株式投資に充てていたこと、自身の銀行口座に入金していたことなどを挙げて追及した。

 この事件のカギとなるのが「面接カード」だ。

 生活保護費の支給方法は各自治体により異なるが、大きく分けて「銀行振り込み」と「役所払い」の2通りである。後者は封筒に入った保護費を現金で手渡しされるのだが、その際、受給者は、支給日当日に担当のケースワーカーと面接して面接カードを受け取る。このカードと引き換えに、窓口で保護費を受け取る仕組みになっている。 筆者は、とある支給日に、同区給付係の窓口をのぞいてみたことがある。

 保護費を求めて押し寄せる受給者でごった返し、職員は大忙し。机上の段ボール箱に保護費が入った封筒が詰められ、面接カードに記載された氏名と照らし合わせ、次から次へと受給者に手渡ししていた。

 驚くことに、身分証明書などで本人確認をすることはなかった。仮に面接カードを拾った第三者が窓口に持って行っても、受け取れる可能性は高い。はっきり言って、ズサンすぎる。

長田龍亮(ジャーナリスト)と週刊アサヒ芸能取材班

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