判決から約3カ月後、筆者はさいたま市内にある小林元被告宅を訪ねた。静かな住宅地の一角にある庭つき2階建の一軒家。駐車場には愛車のフォルクスワーゲンが止まっていた。
チャイムを押すと、インターホン越しに、「はい」とか細い声で応答があり、突然の訪問に驚きながらも取材に応じた。
「反省してますよ。裁判で証言したとおりです」
近況を尋ねると、執行猶予判決後、新しい仕事を始めたというが‥‥。
「(自宅が仮差し押さえされたことについて)まだローンが2000万円以上残っていますし、できればここを手放したくないです。だから、返還請求があれば、なんとか現金をかき集めて返還しようと思ってます。この先、どうなるんでしょうねえ。もう精神的につらいです」
確かに社会的制裁は受けたかもしれない。仕事を懲戒免職という形で失い、もらえるはずの退職金約1200万円はフイになった。
多くを失った小林元被告は「自業自得なのはわかってますよ」と自嘲気味に述べ、
「幸いにも執行猶予がもらえたので、今後は真面目に働いて社会に尽くしたいと思っています」
との言葉で締めくくった。「着服裁判」同様、消えた保護費の行方について語られることはなかった。
時を同じくして、北区生活福祉課では、別の元職員が約1300万円を不正受領していたことが発覚。昨年11月に詐欺容疑で逮捕され、今年2月には別の住民の保護費をダマし取った容疑で再逮捕されている。
はたして給付係の職員は、この2人の長年にわたるウソを見破れなかったのだろうか。いくら2人が福祉事務所の職員であっても、毎月のように代理受領をしていたら、「何かおかしい」と感じるのが普通だろう。
同様の着服事件は全国各地で起きている。
福祉行政はいったいどうなっているのか。生活保護が本当に必要な人に行き渡るためにも、不正の実態を直視することから始めるべきではないだろうか。
長田龍亮(ジャーナリスト)と週刊アサヒ芸能取材班