韓国の情報機関である国家情報院が、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに派遣された北朝鮮兵の死者が300人を超え、負傷者も2700人以上に達したとの分析を公表したのは1月13日のこと。
同院の報告によれば、ロシアに派兵された北朝鮮兵士らは、西部クルスク州でウクライナ側からのドローン攻撃に対し一切の後方支援がない状態で突撃するなど、文字通りの「肉弾戦」で臨み、死者、負傷者ともに急増。しかも、戦死した北朝鮮兵が所持していたメモには、「生け捕りになる前に自爆、自決するよう当局が強要する内容があった」ことで、戦場における北朝鮮兵士らが、いかに非人間的な扱いを受けているのかも明らかになっている。
「報告書によれば、多くの兵士が死の直前に『金正恩将軍』と叫び自爆しているのだとか。ウクライナ側の捕虜になっている兵士2人の聴取では、兵士らには当局からの具体的な給与支給の約束はなかったものの、ロシアに行けば『英雄として待遇する』と伝えられ、当局から家族にも十分な食料や生活必需品などが提供された、と証言しているようです」(北朝鮮ウォッチャー)
当局側は彼らの派兵をあくまでも「軍事訓練の一貫」として家族に対してもその場所や期間を明かすことを禁じていたようだが、これだけ死者の数が増えれば、当局としてももはや口に戸を立てられない。そこで、亡くなった兵士が住む地域の労働党責任書記が遺族を訪ねたり、あるいは彼らを平壌に呼び寄せ、兵士が亡くなったことを伝えるといった状況が続いているという。
遺族の状況を伝えた米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の報道によれば、当局は遺族に戦死場所や死因などは一切明かさないものの、彼らが特殊部隊に所属し「祖国の名誉のため神聖なる戦闘訓練に参加して死亡した」と伝えているというが…。
「遺族も秘密保持に同意しているため口には出さないものの、国内での勤務中に死亡した際の待遇とあまりにも違いがあることは明らか。しかも、1年に1、2人しか授与されたことのない戦死証明書が、同じ地域で1月の間に10人以上の遺族に授与されることになれば、押して知るべしでしょう。遺族には『戦死証明書』のほか、朝鮮労働党の『党員証』が手渡されるのですが、これは労働党への入党を正式に認めたもので、なおかつ大学進学の推薦や幹部登用など、特別な身分が与えられたことの証となるんです」(同)
しかし、その見返りとして自分の子供がどんな任務につき、どこでどう亡くなったかについては知らされない。そして、声を上げて泣くことさえ許されず、親戚などにも決して他言してはならないと、きつく固く口止めされる。これが戦死証や党員証、さらに勲章と引き換えに遺族たちが味わっている現実なのだ。
「一部報道によれば、戦死証授与式で党幹部が遺族に対し、息子の死を外部に漏らさないことを条件に、平壌で現在建設中のタワマンへの入居を約束している、といった情報もあるようですが、地方都市で暮らす人々にとって、平壌はまさに選ばれた者だけが住むことを許された都市。ただ、戦争が長引けば当然、亡くなる兵士の数も増えるはずで、そうなった場合、当局は遺族に対しこの厚待遇を継続していけるのかどうか。しかし、遺族の気持ちを考えると何とも切ないばかりです」(同)
はたして、明日をもわからぬ生死を前に戦場にいる北朝鮮兵士たちの思いとは…。
(灯倫太郎)