12月3日の尹錫悦大統領による「非常戒厳」発動の余波で、今もなお大きく揺れ動いている韓国。一方、7日にはシリアのアサド政権が崩壊。アサド大統領がロシアに亡命し、暫定的に反政府勢力が政権を担うことになったシリアでも混乱が続いている。
そうした中、ロシアのメドベージェフ前大統領が中国を訪問し習近平主席と会談したことが中国メディアで報じられたのは12日のこと。新華社通信は、メドベージェフ氏を「ロシアの政権与党『統一ロシア』の党首」と紹介。両氏はBRICSなど多国間における枠組みの中での中露関係強化や、ウクライナ侵攻などについて、様々な意見交換を行ったと伝えている。
「会談の中で習氏は、ウクライナ侵攻について『国際社会と協力して、危機に対する政治的解決のための有利な条件を作り出す』と述べ、従来の『政治的解決を求めたい』という中国の立場を強調。メドベージェフ氏も『政治的解決を積極的に推進する意向である』とこれに応じたといいます。とはいえ、暮れも押し迫った12月、しかも、ロシアが支援してきたアサド政権の崩壊でプーチン大統領の威信が大きく低下したとも言われる直後の訪中だけに、様々な憶測が飛び交うのも当然のことでしょうね」(国際部記者)
ロシアがアサド政権の救世主としてシリアに軍事介入したのは、2015年のこと。ロシアはその見返りとして、NATOへのけん制のため、シリア国内に海軍、空軍基地を借りてきた。しかし、長引くウクライナ侵攻による疲弊によりシリアに兵力を使う余力がなくなり、北朝鮮に兵士派遣を願い出るほど手いっぱいの状態になった。そんな中、プーチン氏としては中国との緊密な関係を再構築し、それをBRICS加盟国はじめ国際社会にアピールしたい。そこで側近であるメドベージェフ氏を急遽、使者として中国に送ったというのが、西側諸国による大方の見方だ。
「金正恩総書記の訪露以降、露朝が急接近し、あれよあれよという間に『露朝戦略的パートナーシップ条約』まで締結。北朝鮮の兵士がウクライナ戦争にまで駆り出される事態になった。しかし、ロシアは正面切って中国には説明していなかったようなんです。これまでさんざん北朝鮮の面倒を見てきた中国としては、この状況を面白いと思うはずもなく、ロシアと中国との間にできた溝は深まるばかりだった。今回のメドベージェフ氏訪中は、いわばプーチン氏と習氏との手打ちの場であった可能性もあります」(同)
とはいえ、対北朝鮮問題では、ある意味中国がコケにされてきたことも事実。習氏がプーチン氏の側近をよく快く受け入れたものだという気もするが、中国側にものっぴきならない事情があるようだ。
「冷え込み続ける中国の経済です。中国では12月11日と12日の両日、北京で来年度の経済運営方針を話し合う『中央経済工作会議』が開かれたのですが、演説で習氏は『2025年もより積極的な財政政策を実施する』と宣言。財政出動により景気を下支えする方針を明確に示しました。来年はトランプ氏が米大統領に返り咲き、関税の大幅引き上げを含め間違いなく貿易摩擦が想定されるはずで、少しでもこの打撃を軽減させるためには内需を拡大させていくしかない。そうなれば、エネルギーとしてロシア産の安価な原油の輸入が必要不可欠になる。そこで、北朝鮮の派兵に目をつぶる代わりに、ロシアとの関係を優位な形で再構築させ、自国の利益につなげていきたいと考えているのでは」(同)
北京でのメドベージェフ前大統領と会談後、「中国とロシアは、世界の公正と正義をともに守っていく」と話したという習近平主席。腹黒い者同志の水面下での攻防戦はしばらく続きそうだ。
(灯倫太郎)