人手不足が深刻だ。あらゆる業界、業種で人が足りない。なじみの飲食店主は「いくら募集してもスタッフが来ない」と嘆く。定休日を増やしたり営業時間を短縮したりして対処する飲食店や小売店もある。大工不足で家の修理もままならないと聞く。
人口減少はこれからも続く。16年後の2040年には生産年齢人口(15歳~64歳)が現在よりも2割減る。8がけである。本書は「現役世代が2割減ると日本社会はどうなるのか」を様々な視点で予測し、分析している。
ポイントは、減るのは現役世代であるということ。高齢者は増える。社会の支え手が減り、支えられる側が増える。この未来予測はほぼ確定だ。よほどSF的な大事件─例えば、高齢者だけが死ぬ謎の疫病が大流行するとか、宇宙人が大挙して移住してくるとか─でもない限り、8がけの未来は変わらない。
現役2割減社会のイラストが載っている。農業を営む人が減って、農作物の価格高騰。荷物が運べなくなり、注文してもすぐ届かない。家屋の3割が空き家になるが、大工が6割減ってリフォームもできない。道路や橋が老朽化しても修繕できず、あちこちが通行止め。運転士不足で路線バス廃止。地方公務員の数が足りず、行政サービスの維持ができない。介護職員が69万人不足して、訪問介護の急なキャンセルが多発する。
このまま何も対処しないなら16年後の日本は地獄だ。しかし、8がけ社会でも我々は生きていかなければならない。2割減を何で補うか。ひとつはロボットなど機械の導入。機械でできることは機械に。「人の温かみがいいね」なんて、贅沢は言ってられない。もうひとつは、移民も含めた外国人労働者(彼らは納税者でもある)だが、欧米を見るとわかるように、そう簡単なことではない。
超過疎化が進んだ地域で水道や電気、道路、公共交通機関などインフラを維持するのは難しい。戦後の経済成長期以前の不便な時代に戻るのか。誰もが納得することは難しいから、誰もが少しずつ不便と不満を抱えながら妥協点を探るしかない。
「8がけ」が「7がけ」、さらには「6がけ」「5がけ」にならないためにはどうするか。若い世代が希望を持てる社会にするしかない。彼らが「自分たちは高齢者に搾取されている」と感じるようなことがないように。「古い世代の価値観を押しつけられている」と思うことがないように。ジェンダー平等はいうまでもない。
本書にある、ドイツ在住の作家、多和田葉子のインタビューが印象的だ。多和田の小説「献灯使」では、元気な高齢者が、ひ弱な曾孫をケアする姿が描かれている。若者=支える側、高齢者=支えられる側という固定観念を捨てなければならない。年齢も性別も障害の有無も関係なく、それぞれができることをして、社会の足りないところを補うようなゆるい関係がいいのかもしれない。
《「8がけ社会 消える労働者 朽ちるインフラ」朝日新聞取材班・著/990円(朝日新書)》
永江朗(ながえ・あきら):書評家・コラムニスト 58年、北海道生まれ。洋書輸入販売会社に勤務したのち、「宝島」などの編集者・ライターを経て93年よりライターに専念。「ダ・ヴィンチ」をはじめ、多くのメディアで連載中。