警察庁によると、特殊詐欺の被害額は昨年だけで452億円余り。詐欺や強盗で弱者から巻き上げた犯罪マネーはどこへ消えたのか。取材で浮上したのは、仮想通貨による資金洗浄ルートとボロ儲けの構図だ。それでも満足することなく、豊富な資金力で凶悪犯罪を生み出し続けるトクリュウの実態に迫った。
11月5日に実施された米大統領選で返り咲きを果たした共和党のドナルド・トランプ氏(78)。
7月末に「米国をビットコインの超大国にする!」と宣言していたこともあり、当選確実が判明すると、暗号資産(仮想通貨)のビットコインは右肩上がりで上昇。日本時間13日深夜には初めて1ビットコインが9万ドルを突破。日本円に換算して1400万円超の最高値をつけた。時価総額は実に280兆円に上る。トランプ次期大統領の政策を見越した〝トランプ・トレード(売買)〟に他ならないが、本稿執筆中にもビットコインは高騰を続け、ついに10万ドル(約1540万円)の大台に乗った。
この状況にほくそ笑んでいるのは、投資家だけではなく、裏社会の人間も同様だ。特殊詐欺や投資詐欺などを繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ(以下・トクリュウ)」やIT犯罪に精通するA氏が語る。
「何しろ、犯罪収益をマネーロンダリング(資金洗浄)し、最終的にビットコインや米ドル価格に連動したステーブルコインに変換して保管することは、今や常識中の常識。特にビットコインを愛用する犯罪者は世界的にも多く、今回の急騰で大儲けしている。この4年ほどで犯罪収益が10倍以上に膨らんだのだから笑いが止まらないはず。重要なのは、大金を手にした犯罪者がカタギになるわけではなく、『もっと儲かる詐欺はないか』と、次なる犯罪に手を広げていくこと。25年末には、ビットコインが2000万円台まで上がるというアナリストの分析もあり、詐欺にしろ、強盗にしろ、新たな凶悪犯罪が増えていくだろう」
トクリュウは特殊詐欺だけでなく、SNS型投資、ロマンス詐欺、組織的窃盗などに関与しているが、一般市民が恐怖を感じるのは強盗だ。
基本的に「指示役」が犯罪の絵を描き、「リクルーター」がSNSを通じて闇バイトを募集。そこで「実行役」「運転役」「回収役」を集めて犯行に及ぶ。
11月5日に警察庁は、8月以降に1都3県で18件の強盗事件が発生したことを発表した。
残忍な犯行手口も目立ち、10月16日には神奈川県横浜市で、自宅で手足を縛られた70代男性が遺体で発見された。死因は全身打撲による失血死で、現金約20万円と30万円相当のネックレスなどが奪われた。
翌17日には、千葉県市川市の住宅から50代女性が拉致される強盗致傷事件が起き、約15時間後に保護された被害者は、全治1カ月半の重傷を負っていた。
トクリュウの残忍な犯行に対し、警察庁は11月14日、闇バイトの応募者に向けて、
「警察は必ず捕まえます。逃げることはできません」
と、警告文を発表。自民党も「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」を新設した。ようやく闇バイト犯罪の撲滅に本腰を入れ始めたが、凶悪犯罪はそう簡単に止まりそうにない。アングラ事情に詳しいライターが解説する。
「これまでは十分な下調べをして強盗をしていましたが、警察の目が厳しくなっているので、スピード勝負で無差別に押し入っています。犯行も荒くなっていて、11月20日には、闇バイトに応募した17歳の少年がメンズエステ店に押し入り、女性従業員をナイフで脅す強盗未遂がありました。北海道札幌市では、タクシー運転手が勤務中に闇バイトと掛け持ちをして、強盗の『実行役』を犯行現場まで送り届けて逮捕される事件も発生。また、闇バイトの募集の手口も変わりました。数時間の短期、単発で働くスポットワークのアルバイトの仲介アプリに『深夜に住宅街で仕事』などと募集をかけるケースも。警察の監視が行き届きにくく、SNSに比べて手軽に応募できることもあって、誰もが犯罪者になりうる状況です」
トクリュウのなりふり構わない凶悪犯罪に、おびえて暮らすしかないのか。
(つづく)