今年も秋以降の「最低賃金」が決まった。1時間あたりの仕事に対して最低限払わなくてはならない時給は、国の「中央最低賃金審議会」という厚生労働省の諮問機関が決定。その後、様々な手続きを経て、都道府県別に1時間あたりの最低賃金が決められ、例年10月中に施行される。
これは法律によって決められたものなので、これ以下の賃金しか支払われない場合、使用者は罰せられる。最低賃金には、このような地域別の最低賃金以外にも「特定最低賃金」というものもある。これは各地で特定された仕事に関しての最低賃金で、地域別の最低賃金よりも高いことが一般的だ。特定最低賃金と地域別の最低賃金のどちらか高い方が支払われなくてはならない。
7月下旬に決まった最低賃金は去年よりも50円上がり、全国の加重平均が1054円となった。それでも何かとライバルとされる韓国(25年は1万30ウォン・約1160円)などに長いこと負けているのだが、韓国より安い時給とはいえ、多くの経営者は払うのが大変だ。そんなに給料を払っていたら会社が潰れてしまうという経営者も少なくない。
中小企業にとっては、取引先に収める商品やサービスの価格が低いままで、なかなか給料を上げられない制度的な問題点もあるが、高い給料を払える事業展開をしていないという経営者本人の問題もあったりする。少なくとも会社の利益を確保するため、給料を徹底的に削るといった経営は、長続きはしないだろう。
人手不足の日本で、安い給料のままであれば人材はこない。日本人だけでなく、外国人もすぐ雇えなくなる。働く側に職場を変更する自由が限られている外国人の技能研修などの制度も、近いうちに大きく変更されていくはずだ。
今は最低賃金や、それに近い給料しか払えていないという経営者は、早急に改善しないと働き手がいなくて経営が継続できなくなり、黒字倒産なんてことにもなりかねない。
多くの野党が「今すぐ実施せよ」と主張してきた時給1500円に呼応して、政府は30年代までに実現するという目標を掲げた。今後の物価や経済の状況によるだろうが、きっと5年ほどで実現するのではないかと予想している。
そして、地域別賃金の格差もこれから縮めなくてはならない課題だ。今まで全国の都道府県を3つのグループに分けて賃金の引き上げ額を決めてきたが、今年は全国一律で50円引き上げるとした。つまり、すでに時給の高い都市部よりも、今まで時給の低かった地域の方が引き上げ率が高くなるわけだ。
最低賃金が一番高い東京都が1163円、2位は神奈川県の1162円で、3位は大阪府の1114円。一方、時給が50円上がっても950円以下の県が16県もある。現在、日本で一番最低賃金が低いのは岩手県で、秋から50円上がって943円の時給となる。次が沖縄県と徳島県の946円、947円になるのは鹿児島、宮崎、秋田、愛媛、高知県だ。
この差は地域ごとに物価が異なり、安く済むという考えに基づいてのものだが、地方の食費が東京と比べて安いのかというと決してそうではなく、むしろ高いことも多い。
しかも地方は自家用車が必要など、交通費は東京などの都市部に比べると非常に高い。光熱費も安くない。持ち家で家賃がかからない人は多いかもしれないけど、それ以外の生活費は、むしろ地方の方が高いというのが私の実感だ。
それを考えると、地方創生が政治の課題であれば、地域によって大きな差がある最低賃金の格差も早急に埋めるべきだろう。
そうでないと、安くて便利な都市部に、ますます人口は流れて行ってしまう。賃金格差は地方から人をどんどん奪っているのだ。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。