ウクライナや中東では激しい戦争が続き、台湾では軍事的緊張が高まっているが、今後は「北極」でも大国間の対立が深まるかも知れない。
世界各地で熱波や大洪水など温暖化による影響が顕著に見られるが、北極では気温上昇が地球全体の4倍の速さで進み、この35年の間に北極全体の氷河は3分の2が消えたとも言われる。生態系を考えれば極めて深刻なことではあるが、北極を覆う海氷の面積が縮小していく中、近年は諸外国の間で北極海航路の開拓、北極海に眠る資源への注目が集まっている。
日本と欧州を結ぶ海上貿易路を考えた場合、基本的なルートはスエズ運河を通る南回り航路で、それは2万キロにもなる。しかし、ベーリング海峡から北極海を経て欧州に至る北極海航路は南回り航路の6割ほどの距離で済み、燃料費や航行日数などを考えると大幅なショートカットとなる。ブリザードなど北極の厳しい気象条件を考慮すれば決して安全な航行ルートとは言えないが、海上貿易に依存する日本にとっては極めて重要な選択肢となる。
また、グローバルサウス諸国の台頭で今後、諸外国の間では石油や天然
北極海の管理については1996年のオタワ宣言に基づき、その沿岸8か国の米国、カナダ、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアで構成される北極評議会が主体的な役割を担ってきたが、近年では中国が関与を強め、大国間競争がエスカレートしている。
中国は2018年1月、「北極白書」という中国が北極にどう関与していくのかについての文書を初めて発表し、「氷上のシルクロード構想」を打ち出した。氷上のシルクロードとは一帯一路にある海のシルクロード、陸のシルクロードに次ぐ第3のシルクロードであり、中国は北極開拓のルール作りで影響力を高めようとしている。ロシアやアイスランド、デンマーク領グリーンランドなどへ積極的な投資を行い、近年では独自の砕氷船で北極海横断を成功させたりするなど、北極へ積極的な関与を示しているのだ。
しかし、中国の北極関与について、米国は「北極海を新たな南シナ海にしてはならない」と牽制し、北極を舞台とした米中対立も顕在化している。また、ロシアがウクライナへ侵攻したことにより、ロシア以外の北極評議会の加盟7カ国は北極開発におけるロシアとの協力を停止することを発表、評議会は機能麻痺に陥っている。
一方でロシアは、北極への関与を強める中国との関係を強化。両国は4月に北極海の沿岸警備で協力を強化することで合意し、最近では両国の艦船が米国アラスカ州のアリューシャン列島付近の海域で大規模な哨戒活動を行っている。
米中対立が先鋭化し、ロシアが欧米と亀裂を深めることは、北極海に眠る天然資源を獲得したい中国にとっては好都合な状況だ。今後、北極ではさらに対立が深まるだろう。
(北島豊)