背景に先端半導体、中国が日本産水産物の全面輸入停止を続ける理由

 日本が福島第一原発の処理水放出を開始し、それを理由に中国が日本産水産物の輸入を全面的に停止してから8月24日でちょうど1年となった。国際原子力機関(IAEA)は国際的な安全基準に合致しているとの報告書を公表しており、多くの国々も衛生的に問題なしとの姿勢だ。日本は科学的根拠が示されていないとして、中国に輸入停止の即時撤廃を求めているが、中国は解除する姿勢を示さない。これによって、中国に魚介類を輸出してきた日本の水産加工会社は突然ビジネスの機会を奪われたが、中国依存のリスクを認識し、東南アジアや米国など新たな輸出先の確保に努めている。1年が経つが、なぜ中国は解除しないのか。

 その背景には、米国の要請に基づいて日本が先端半導体分野で中国への輸出規制を開始したことがある。バイデン政権は2022年10月、中国のよる先端半導体の軍事転用を防止するべく、先端半導体分野で大幅な対中輸出規制を開始したが、先端半導体の製造装置で高い技術力を誇る日本に対しても協力を呼び掛け、日本は昨年7月から中国への輸出規制を開始した。中国は先端半導体の獲得を目指しており、米国がそれを阻止しようとする動きに苛立ちを強めており、米国との連携を重視する日本に対しても不満を募らせているのだ。

 その直後、中国は日本がその多くを中国からの輸入に頼っている希少金属ガリウム、ゲルマニウム関連の輸出規制を強化し、冒頭のように日本産水産物の全面輸入停止に踏み切ったのである。中国側は今でも衛生面を理由に挙げているが、半導体分野で日本が輸出規制を開始したことに対する対抗措置であることは間違いない。1年経っても解除しないのは、中国側の日本への貿易的な不満が依然として強いことを示している。

 そして、米国は先端テクノロジー分野では今度とも容赦なく中国への貿易規制を強化することは間違いなく、必要に応じて日本へも同調を呼び掛けるだろう。同調圧力といった方がフィットしているかも知れないが、安全保障を理由に挙げられたら日本は米国には「NO」が言えず、対中輸出規制を敷くことになる。しかし、そういった状況が鮮明になれば、中国はいっそう日本への経済的威圧を強め、対日輸出などを停止していく恐れがある。

(北島豊)

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