7月末にイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が、イランの首都テヘランで暗殺されたことを受け、訪問先であるイランは当初から近日中に報復措置をとる、と宣言していた。
イランがイスラエルを攻撃した場合、イスラエルを支援するアメリカも「黙って見ていることはない」としているため、中東問題が“第三次世界大戦”への火種になることは十分考えられる。中東がそんな一触即発の空気に包まれる中、戦闘開始から8月で2年半を迎えたロシアとウクライナとの間にも、ここ数日で大きな動きがあった。
これまで防戦一方と思われていたウクライナ軍が6日、ロシア西部クルスク州へ奇襲での越境攻撃を展開。国境から数十キロ地点まで前進し、クルスク州内の74集落を占拠するなど、ロシアによる侵攻開始以来、最大規模の総攻撃に転じたのである。
むろん怒り狂ったプーチン大統領は12日、「クルスク地域の領土から敵を排除しなければならない」と声明を発表。対抗するロシア軍による徹底した掃討作戦が始まっているが、
「11日にはロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発から黒煙があがり、近隣各国が騒然となった。幸い大事には至らず、国際原子力機関(IAEA)も『原発の安全性に影響はない』と発表していますが、ゼレンスキー大統領はテレグラムで、『犯行はロシア軍によるものだ』と主張し、ロシア側を痛烈に批判している。一方、原発を管理するロシア側は、ウクライナ軍による無人機攻撃が2度あり、ウクライナ軍による犯行だ、と真逆な主張を繰り返し、毎度の罪の擦り付け合いが続いています」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
ともあれ、奇襲で越境攻撃を受けたプーチン氏が怒り心頭なことは想像するまでもなく、今後も前線での戦闘が激化することは間違いないだろう。
ところが、怒りに震えるプーチン氏が、何とそのタイミングでイランの最高指導者ハメネイ師に対し、イスラエルへの報復攻撃で民間人に犠牲が出ないよう自制を強く求めていた、とロイター等で報じられ、その真意を巡ってさまざまな憶測が広がっているのだ。
「ロシアにとってイランは反米で一致した友好国。近年は北朝鮮と接近し、宇宙開発の見返りに武器弾薬などの提供を受けていますが、現在もイランがロシアにとって主要な武器供給国であることは変わりません。特に自爆型武装ドローンは大半がイラン製で、ロシア国内にもイラン製ドローン製造工場が建設されていると言われ、ロシアにとってイランは武器調達では絶対に欠かせない国なんです」(同)
ところが、イランがイスラエルに報復攻撃し、両国の戦闘が激化した場合、ただでさえ武器弾薬の枯渇が著しいロシアへの軍備支援が縮小、最悪の場合、停止に追いやられる可能性も出てくる。
「プーチン氏にとって一番の痛手となるのは、新しい武器弾薬が確保できなくなること。北朝鮮と関係ができたことで、そちらから入ってくる兵器もありますが、性能はイランに比べ雲泥の差があると言われていますからね。プーチン氏としては、自国の武器調達において大きな痛手となる中東の緊張拡大は、何としても避けたい。そこが一番重要な問題だというわけなんです」(同)
つまり何のことはない、越境攻撃が続く中でのプーチン氏異例の「中東和平呼びかけ」には、自国の利益だけを優先した、自分さえよければいいという本音があったというわけか。
ロシアとウクライナ、イランとイスラエル、緊張状態が続く4国の行方は…。
(灯倫太郎)