プーチン大統領が5選を果たした直後の3月22日、モスクワ郊外にあるコンサートホールに銃武装した4人組の男たちが押し入り、観客に向け銃を無差別に乱射。140人以上が犠牲となった。
ロシアではこれまでもイスラム過激派によるテロが発生してきたが、犠牲者が3桁に達するテロは近年では見られない。事件後、10年ほど前に各国で残忍なテロを繰り返し、世界を恐怖に陥れたあのイスラム国(シリアとイラクで活動)が犯行声明を出し、欧米当局はアフガニスタンを拠点とするイスラム国の地域組織、イスラム国ホラサン州(ISKP)が事件に関与したと断定した。
ISKPは2015年にアフガニスタンで台頭したが、もともと反ロシア的な感情を抱く戦闘員らが参加している。そのためロシアはイスラム国と敵対するシリアのアサド政権を支援し、自らもイスラム国へ空爆などを行ってきたことから、イスラム国がロシアを狙う理由は十分にあった。ISKPはアフガニスタンにあるロシア大使館を襲撃し、ロシア人2人が死亡したこともある。
一方、ISKPが狙うのはロシアだけではなく、定期的に発信する声明の中で中国への敵意を頻繁に示している。ロシアと違い中国は、アフガニスタンを支配しISKPと敵対するイスラム主義勢力タリバンと関係を強化、同国では経済的な影響力を強めている。ISKPはそれに対して強く反発し、2022年12月には、首都カブールにある多くの中国人が利用するホテルを狙った襲撃テロを起こして3人が死亡、中国人5人が負傷した。その後、ISKPは中国人を狙ったと犯行声明を出した。
また、習近平政権は中国西部の新疆ウイグル自治区でウイグル人(イスラム教徒)への監視の目を徹底し、強制労働に従事させたり、洗脳教育を行ったりと人権侵害が問題視させているが、ISKPはこれにも強く反発し、中国への敵対心を強く抱いている。
これまでにISKPが発信した声明を眺めると、ISKPはロシア以上に中国を敵視しているようにも映る。今回、ロシアでISKPが大規模なテロを実行したことで、中国もかなり神経を尖らせていることは間違いない。今後は、ISKPが中国国内、もしくは海外にある中国権益へのテロを起こす可能性が高い。
(北島豊)