今年で96回目を迎え、映画界ではもっとも権威のある賞として知られる米国のアカデミー賞。日本人にとっては03年の宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」が長編アニメーション映画賞、09年は本木雅弘主演の「おくりびと」が、22年には西島秀俊主演の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞して話題になったが、驚くことにロシアのプーチン大統領もアカデミー賞受賞作品に出演歴があるというのだ。
その作品とは、第95回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「ナワリヌイ」。20年8月に毒殺未遂に遭ったロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に密着し、プーチン大統領が犯行に関与したとする証拠を挙げて追及している作品だ。
「プーチン大統領は事件の黒幕という完全な悪役です。当然、映画には協力していませんが会見映像などが使われ、作品に何度も登場しているのです。もちろん、ロシア政府は一貫して疑惑を否定していますが、同作は昨年の英国アカデミー賞ドキュメンタリー賞も受賞しており、欧米圏では事実として広く認識されています」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)
ナワリヌイ氏は21年1月、毒殺未遂で療養していたドイツから帰国直後に当局に拘束され収監。さらに23年には過激派組織を創設した罪などで、禁錮19年が上乗せされた。昨年末にはモスクワ近郊の刑務所から、極寒の北部シベリアの刑務所に移送されている。
「ドキュメンタリー映画としての質の高さもありますが、公開時期がちょうどウクライナ侵攻と被ったことで世界的に大きな注目を集めました。そのあたりも受賞を後押ししたかもしれません」(同)
実は、プーチン大統領の“出演作品”は「ナワリヌイ」だけではない。アカデミー賞を複数回受賞した巨匠オリバー・ストーンが監督を務めた「オリバー・ストーン オン プーチン」(17年)、プーチン大統領が初めて政権トップに上り詰める直前の99年末からの1年間に密着した「プーチンより愛をこめて」(18年)という、彼が“主人公”の2本のドキュメンタリー映画がある。
いわば「プーチン3部作」。興味がある向きはこの機会に鑑賞してみてはいかがか。