澤田秀雄・会長兼社長が率いるHISと言えば、言わずと知れた格安航空券のパイオニアだ。今でも同社の売上高の9割弱は旅行事業が占める。
ところが、旅行事業はネット専業の旅行業者に徐々に押され、経営不振の中買い取って経営再建を果たして以後、同社に収益をもたらしてきた長崎のハウステンボスも、2016年4月の熊本地震以来、集客に苦戦して利益の伸び悩みに苦しんでいる。
2010年には1000円だった同社の株価は、15年にかけては4倍の4000円まで順調な右肩上がりで推移していたものが、2016年には3000円を割り込み、以後3000〜4000円前後を行きつ戻りつし、ここ約3カ月は3000円を割り込んでいる。
「そこで狙いを定めたのが、旅行業の“お隣さん”のホテル業です。もともと持っている旅行・観光業のネットワークと販売チャネルを使えばホテルの空室を埋め、稼働率を引き上げられる。本業との相乗効果が見込めるというわけですね。同社では既に、ロボットが接客する宿泊特化型の『変なホテル』を展開し、ホテル業に乗り出していました」(経済ジャーナリスト)
だから7月10日、みずほ系(旧日本興業銀行系列)の不動産会社、ユニゾホールディングスにTOB(株式公開買付)を仕掛けたのだ。ユニゾは3ブランド、約25軒のビジネスホテルを展開している。TOBという少々無理な買い物でも、いち早くチェーン網を広げることが出来、「時間が買えるなら高い買い物ではない」というわけだ。当然ながら、市場の注目も集まった。
ところが結果は、周知の通り不発に終わった。ユニゾのホワイトナイトとして登場したソフトバンク系米投資ファンドが示した買い付け価格は4000円で、3100円の買い付け額のHISに対し株主からの応募はないまま、期限の8月23日を迎えた。そして29日、HISはユニゾを諦め、再TOBはしないと発表した。
計画の見直しを迫られることになったHISと澤田氏だが、ここ最近は、株価・ハウステンボスの集客不振に加えて、あまり芳しくない話題がつきまとう。
「すでに一部で大きく報道された話ですが、澤田氏を巡っては、M資金まがいのリクルート株投資話で約50億円をだまし取られたという疑惑が燻り続けています。現在、その怪しい投資話の当事者間で、カネを返せ・返さないの民事訴訟が争われていますが、その投資話に澤田氏が金を投じていたようです」(週刊誌記者)
そして乾坤一擲のTOBも不調に終わったHISと澤田氏、次はどんな手を打ってくるのか。やり手の澤田氏だけに、既に水面下で具体的な次の一手を打ってあるのかもしれないが、公になっている動きとしては、ハウステンボスの上場が近く予定されている。
「今年の2月にハウステンボスが上場準備に入ることを会見で明言しました。また、6月には澤田氏が後任にハウステンボス社長の座を譲ったんですが、その際にも2〜3年後の上場を目指すとしています」(前出・経済ジャーナリスト)
「でもそれだけじゃないんです」と、ジャーナリスト氏は付け加える。
「IR誘致でも4〜5年後の実現を目指すと、改めてカジノの誘致について明言したんです」
横浜市がIRの誘致を明言したことで再び沸き起こったIR誘致合戦。内閣筋からは「当面は3カ所設置とされているIRは、関東に1つ関西に1つ、それから地方に1つというのが既定路線ですが、関東と関西は横浜と大阪でほぼ本決まり」という声が漏れてくる。
注目は、1つ残った地方枠がどこになるかだという。今回のTOBは、ハウステンボスへのIR誘致に一層の拍車をかけるかもしれない。
(猫間滋)