「陰る中国経済」の象徴となった11・11「独身の日」

 中国で毎年、ネット通販による大規模セールがおこなわれる11月11日の「独身の日」。これが、最初は「光棍節」と呼ばれ、その日がなぜ「生まれた」のか、知っている人は多くないだろう。

 由来がどうあれ、「独身の日」が今では中国の小売業の起爆剤となっていることは間違いない。今年もそのセールが、低調な中国経済を打破するきっかけになるのか、あるいはさらなる経済不振の象徴となるのか、注目されていた。

 中国のビックデータ分析会社「星図数据」が、10月下旬から11月11日までの通販各社の取引総額が前年対比で2%増の1兆1386億元(約23兆6000億円)だったと集計結果を明らかにした。取引額こそ増えているが、伸び率は前年14%増から大きく鈍化している。

 今年の「独身の日」商戦は経済不振の突破口にしようと大手通販はもとより中小の通販に加えて、失業した若者が起業して参加するケースが多く、取引額の行方に注目されていたが、アリババ集団の「天猫(Tモール)」や京東集団(JDドットコム)など大手通販サイトの取り扱い額は前年と比べて1%減に終わったことから、中国経済の前途は一段と厳しいと見込まれている。

 今でこそ中国の「独身の日」は、世界の小売りメーカーが大きなビジネスチャンスとばかりに、アリババ集団や京東集団に群がっているが、始まりは2009年と歴史は新しい。

 もともとは、バレンタインデーに取り残された「独身者」のための行事で、「光棍節(グァングンジェ)」と呼ばれた。光には無の意味があり、棍はつるつるした棒。要するに「役に立たない」とか「価値がない」という意味だ。つまり、中国人が「結婚できない」「恋人がいない」ことを自虐的にそう表現しているのだ。

「独身の日」が11月11日になった訳は1人を表す1が並んでいることにあるが、「独身の日」が生まれ、文化として根付いた背景を知ると、中国らしいと納得してしまう。

 定説のように伝えられているのが、1993年、南京大学の宿舎で暇を持て余した学生たちがベッドに横たわり、「俺たちは独身で恋人もいない。将来結婚できるとも限らない。プレゼントする相手もいない。そんな可哀想な自分にプレゼントしよう」という雑談がアイデアとなって伝播し、自分へのプレゼントを買う習慣が広まったというものだ。

 当時、中国の大学生は多くが貧しく、ほとんどが1部屋6~8人の学生宿舎暮らしであった。王朝時代のエリートの試験である「科挙」の伝統が残っているので貧しくとも大学に進学し、貧乏生活をさらなる節約でしのぐ学生が多かった。

 筆者が中国に赴任していた頃、そんな光景を目にしていたので、「自分へのプレゼント」というイベントがあっという間に中国全土に広がり、文化にまでなったことが理解できるのだ。

 それが今や「独身の日」は中国を飛び越えて、華人の多い東南アジア各国に広まり、欧州へも伝播しているというのだから驚く。

(団勇人・ジャーナリスト)

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