佐藤治彦「儲かるマネー駆け込み寺」日本の最低賃金は韓国よりも低い 給料を上げるのは政治の役目だ!

 今年はアメリカからストライキのニュースがよく届く。春にはAIに仕事が失われると、ハリウッドの俳優や脚本家がスト。秋にはUAW(全米自動車労組)が前代未聞のストライキを始めた。アメリカの自動車3大メーカーBIG3のGM、フォード、クライスラーの労働者15万人が一斉にストを始めたのだ。

 よほど給料が低いんだろうと思っていたら、今の平均給料は66ドル。1ドル148円で計算すると9768円である。だがこれ、驚くなかれ、日給でなく時給なのだ。それを今後3年間で4割増にして労働時間も短くしろとの要求だ。会社側はテスラをはじめとする新興のEVメーカーとの厳しい競争にさらされていて、組合の要求をそのまま飲むことはできないと対立した。

 日本でも久しぶりにストがニュースになった。東京・池袋の西武百貨店の従業員が外国資本に売り渡すなと表明。ストをしてデパートは1日閉まった。だが会社側は組合側の要求を蹴り、池袋店を売却した。

 1970年代まで日本もよくストがあった。ストは労働者の正当な権利だ。しかし日本では組合加入率がとても低いし、組合自体も経営者の視線も持ち、会社の経営陣と激しく対立するようなことまでは避ける傾向が強い。その傾向については賛否両論あるだろう。

 しかし、その結果として今の日本の給料はG7の中で飛び抜けて低い。さらにアベノミクス以降は、特に賃金が低くなる傾向が強いのは残念なことだ。賃金が下がり格差も広がった。働く人の4割にもなる非正規労働者(ちなみに私は、この名称が大嫌いだ。働く人に正規も非正規もない)の生活はギリギリのところに追い込まれている。

 この10月、最低賃金が全国加重平均で時給1004円になった。15年度が798円だったので、8年かけて25%上がったことになる。平均なので都道府県によって最低賃金は異なる。

 いちばん高い東京都は1113円。それでも8時間働いて日給8904円。UAWの労働者が今もらっている時給でしかなく、日給は8分の1だ。物価の違いを考慮しても、日本の労働者の賃金はアメリカの工場労働者の8分の1の価値しかないだろうか?

 最低時給は最低なので、多くの人がもっと高い給料をもらっていると思っていた。事実、最低賃金近くの労働条件で働く人は、90年代から長らく全体の2%くらいだった。それが12年末からの第2次安倍政権を機に増えて、今では働く人のおおよそ19%が最低賃金ギリギリで働いているのだ(厚生労働省の資料による)。

 岸田首相は先日、この時給を1500円まで引き上げると宣言した。過去5年ほどの選挙で立憲民主党などの野党が要求していた数字と同じだ。野党の言うことも、いいと思ったら政権与党が受け入れる。これこそ健全な民主主義だと思って感心していたら、その実現は30年代半ばだという。

 それではあまりにも時間がかかりすぎだし、10年も先まで岸田さんが首相をやっているとは思えない。

 今の日本の経済の弱いところは内需だ。個人消費が特に弱い。金持ちは貯蓄や投資に金を回し、あまり使わない。一億総中流時代と言われた昭和や平成の初めまでは個人消費が強く、日本経済の大きな車輪の1つだった。普通にマジメに汗水流して働く人に、もっとお金を回すほうが経済にとっていいはずだ。

 日本の最低賃金は韓国よりも低い。ストも少なくマジメに働く労働者の給料を上げるのは政治の役目だ。支持率低迷を打開できない岸田さんは、自民党宏池会だ。宏池会の大先輩、池田勇人元首相は「所得倍増計画」を打ち出し、日本経済の黄金期の土台を作った。どうか、偉大な先輩を見習って、この最低賃金1500円達成を早急に実現してもらいたいと強く思う。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。著書「素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書」(扶桑社)ほか多数。

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