2016年、プーチン氏が大統領令により、内務省系の治安部隊を再編した新たな機関として設立した、いわば大統領の私兵が「国家親衛隊」だ。同部隊はプーチン氏の護衛のほか、テロ・内乱の鎮圧など国内の安全確保が主な仕事となり、外敵と戦うロシア正規軍とは全くの別組織で、いうなれば内務省内にある警察組織をより強力な武装組織に集約した位置付けにある。
そんな国家親衛隊に、プーチン氏が新たに戦車や攻撃ヘリコプターを含む、重火器などを供給したという情報を、英国防相が発表した。
同部隊への武器給与の動きが始まったのは7月下旬から8月初旬ということから、タイミング的にみてこの武器は、主にワグネルからの押収されたものと見られている。
「ロシア国防省が発表したところによれば、ワグネルが反乱中止によって国防相に引き渡した軍事装備品は2000以上。弾薬は2500トン以上、小火器は約2万丁あるということです」(ロシアウォッチャー)
それが事実なら、これだけの武器を正規軍ではなく、国家親衛隊に供与したことになる。
国家親衛隊は20万人の兵員を擁すると言われ、規模としては日本の自衛隊の22万人に匹敵する。英国防省は、ロシアは政権の安全を確保する組織として「同部隊への資金供給を大幅に増やす可能性がある」と伝えている。
国家親衛隊はウクライナ戦争にも参加している。だが、参戦拒否が相次ぎ、中には本人の承諾なくウクライナ侵攻へ参加させようとしたとして法廷闘争になったこともある。
「国家親衛隊の大尉と部下11人が特別軍事作戦の任務と条件について誰一人として知らされておらず、出動命令は 『違法』と人権派弁護士に訴えたというもの。大統領直属の親衛隊という組織でありながら、内部統制の混乱ぶりが露わになりました」(同)
そんな内情が、「ワグネルの乱」で同部隊が機能しなかった要因だったのだろうか。
「ベラルーシのルカシェンコ大統領が手打ちし、ワグネルの反乱じたいは短期間で終わったものの、ワグネルはロシア南部の都市ロストフ州ナドヌーを占拠した後、モスクワの南200キロの地点まで進軍。にもかかわらず、国家親衛隊がワグネル鎮圧のために効果的な行動をとったという情報はありませんからね。今回、戦車やヘリ、武器弾薬で重武装したことで、プーチンがどれだけ内部反乱を恐れているのかがわかります」(同)
とはいえ、いくら装備が整ったところで兵士の士気が高まらなければ、機能しないのが軍隊だ。さて、憎きワグネルから武器弾薬をそっくりもらった「プーチンの私兵」は今後どんな活動をみせるのか。
(灯倫太郎)