歴史的大転換か!金与正の「大韓民国」発言で見えてきた「祖国統一断念」

 いよいよ韓国と北朝鮮にとって、歴史的大転換の日が訪れるのだろうか。
 
 北朝鮮の金正恩総書記の妹、金与正・朝鮮労働党副部長が談話の中で、韓国を「大韓民国」と表現したことで、韓国内ではその意図をめぐりさまざまな臆測が広がっている。

 与正氏が談話を出したのは10、11日の両日。与正氏は「アメリカ軍の偵察機が海上軍事境界線を越え、経済水域を8回にわたって無断侵犯した」として迎撃の可能性を示唆したうえで、「今や大韓民国の合同参謀本部は米国防総省の代弁人かのようだ。口出しせずにはいられない悪い癖は、大韓民国一族の体質的特質のようである」と、韓国を複数回にわたって「大韓民国」と表現した。

「これまで、北朝鮮は韓国を『南朝鮮』あるいは『南朝鮮傀儡』と呼び、これは国家として認めず、同じ民族でいずれ統一される対象であるという意志を表していました。ところが今回、正式国名である『大韓民国』を使ったことで、韓国内の専門家の間では、いよいよ北朝鮮が韓国を“別国”とみなし、かつ、米国と同列の“外敵”に位置づけたという見方が広がっています。むろん、最終的な国家目標は北朝鮮、韓国とも祖国統一。しかし今回、与正氏があえて『大韓民国』を強調したことで、朝鮮半島に2つの国家の存在を認めた、と解釈することもできる。つまり、北朝鮮が『祖国統一』という国家目標を捨てた、と宣言した可能性も否定できないということです」(北朝鮮ウォッチャー)

 専門家によれば、実は北朝鮮におけるスタンスの変化は、2021年の第8回朝鮮労働党大会以降、徐々に表れ始めていたとされ、同党大会では党規約から「全国的な範囲で民族解放民主主義革命の課業を遂行」という文言が削除され、代わりに「共和国北半部で富強かつ文明ある社会主義社会を建設」という新たな文言が加えられたという。

「“全国的な範囲”ではなく“共和国北半部”で社会主義社会を建設する、つまりこれは北朝鮮が朝鮮半島を統一し、北朝鮮の主導で国を治めていくという戦略を諦めた、という見方もできます。その証拠に同大会では、書記局で重要ポストにあった対南担当書記が廃止され、北朝鮮の対韓国窓口機関だった祖国平和統一委員会も存在が確認できなくなくなった。さらに、19年のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談の決裂以降は、対韓国業務の従事者らが公の場から姿を消しています。そして第8回党大会以降は、祖国統一について何の発表もしていません。そうした状況に加えて今回の与正氏談話ですからね。北朝鮮の中で何かが変わろうとしていることは、間違いないでしょう」(同)

 はたして歴史的転換の日は来るのか。朝鮮半島の緊張がこれ以上加速しないことを願うばかりだ。

(灯倫太郎)

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