「日本側との接触・交渉を拒否する!」北朝鮮“手のひら返し”裏の「安倍政権のトラウマ」

 朝鮮中央通信が3月25日に伝えた談話で「最近も岸田首相は異なるルートを通じ、できるだけ早く朝鮮民主主義人民共和国国務委員長(金正恩氏)に直接会いたいという意向を我々に伝えてきた」と、日朝の間で外交交渉が秘密裏に行われていることを“暴露”した金与正党副部長。

 ところが、翌26日には前言を翻し、「日本は歴史を変え、地域の平和と安定を図り、新たな朝日関係の第一歩を踏み出す勇気が全くない。日本側とのいかなる接触も交渉も無視して拒否する」などと朝鮮中央通信を通じて表明を発表。いやはや、このわずか1日での手のひら返しの真意はどこにあるのか。

 25日の与正氏の発言を受け岸田首相は同日夜、官邸で記者団に対し、「談話は承知している。北朝鮮との諸懸案を解決するには金正恩氏とのトップ会談が重要だ。私直轄でさまざまな働きかけを行う」と述べ、水面下で交渉があることは否定せず、ただ、首脳会談実現の可能性については「相手のある話だ。今、決まっているものはない」と述べるにとどまったが、

「本来、交渉の経緯を暴露することは外交におけるタブー中のタブーですが、北朝鮮がそれをやってきたということは、むろん拉致問題は解決していない、とする日本側の強固な姿勢にイラ立ちがあるからでしょう。加えて、来春以降になるとみられる米朝協議の時点で、支持率2割程度の現岸田政権が継続する可能性は低いと踏み、もはや協議相手は『ポスト岸田政権』と考えている可能性もある。ただ、北朝鮮としては来年1月、米国でトランプ政権が復活すれば、当然、核保有や在韓米軍撤退などを要求するはず。その際、かつて安倍政権がやったように、トランプ氏に対し北朝鮮の要求に応じないよう働きかけられてはたまらないと考えていることは間違いない。つまり、一連の発言をそのまま鵜呑みにする必要はないものの、彼らが岸田政権の足元を見て揺さぶりをかけ、会談をせかしていることは確かだということです」(外報部記者)

 とはいえ、争点となる「拉致問題」については、大きな困難が予想される。

「北朝鮮は2002年9月の日朝首脳会談で、日本人拉致被害者8人について『死亡』と主張し、一方的に『被害者遺骨』だという骨を送りつけてきて、これで問題は解決、としてきた。今回の与正談話からも、北朝鮮側の立場が変わっていないことは明らかです。ただ、むろん日本側としては拉致問題を抜きにした首脳会談など決して受け入れられるはずがない。今後も、しばらくは水面下での熾烈な駆け引きが続くことになるでしょう」(同)

 そんな中、永田町筋からの一部情報によれば、日本政府は26日に平壌で予定されたサッカーワールドカップ2次予選の日朝戦開催に向け、ある秘策を目論んでいたというのだ。

「実は日本政府は、選手団の支援として14人の政府職員を平壌に派遣する予定だったようなんです。ところが、周知のように試合開催そのものがドタキャンされてしまった。結果、職員の派遣も取りやめになり、貴重なチャンスが失われてしまったというわけです」(同)

 試合開催中止は表向き「日本で流行している感染症」が理由だとされているが、この政府職員らの平壌派遣を阻止するため、との噂もあるというのだが…。いずれにせよ、水面下での攻防戦はまだまだ続きそうだ。

(灯倫太郎)

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