「南朝鮮→大韓民国」「金正恩政権→最悪の国家」南北で“呼び方変更”その意味とは

 歴史の教科書を見ればわかるように、朝鮮半島における南北関係は1999年12月に署名された「南北基本合意書」で「統一を志向する過程で暫定的に形成される特殊関係」にあるため、国と国の関係ではないと規定されている。そのため、北朝鮮は韓国を「南朝鮮」と呼び、一方、韓国も北朝鮮を「北韓」と呼ぶ微妙な関係を続けてきた。

 ところが、韓国政府が26日に公開した韓国軍兵士向けの教材の中に複数個所、北朝鮮を「国家」とする表現が含まれていたとして、その真意を巡り内外に波紋が広がっている。

 韓国在住のジャーナリストが説明する。

「これまで韓国政府は、『南北統一』を最終的な目標とする観点から、北朝鮮を“国家”ではなく“政権”と表現してきました。ところが、今回公表された教材には、端的に『北朝鮮は最悪の国家だ』とする文言がたびたび出てきます。一方、北朝鮮側も米韓への敵対姿勢を強めるなか、韓国について従来の『南朝鮮』ではなく『大韓民国』と呼称しはじめています」

 金総書記の妹である金与正・労働党中央委員会副部長が、初めて韓国を「南朝鮮」ではなく「大韓民国」と表現したのは、今年7月10日に発表した米軍の偵察活動を非難する談話だった。その中で与正氏は「“大韓民国”の合同参謀本部が米国の報道官のように振る舞っている」と表現している。

「韓国統一省によれば、北朝鮮がそれ以前に、南北首脳会談の際など一部例外を除き、公式な声明や談話の中で韓国を大韓民国と呼んだことはないと言います。与正氏はこの日だけでなく、翌11日に発表した談話でも同様に表現。さらに17日の談話では『南朝鮮』と『大韓民国』という2つの呼称を使い分けていました。以来、国防相などの談話にも、この『大韓民国』という言葉がたびたび登場するようになりました」(同)

 与正氏は12月21日にも朝鮮中央通信にて、国連安保理を非難する談話の中で、韓国を「大韓民国」と表現していたが、ほかにも、

「実はここ最近、党機関紙である労働新聞から『わが民族』という用語が消えているんです。韓国との敵対姿勢をより鮮明にしている北朝鮮ですが、かといって核攻撃の対象が同じ民族であるとさすがにまずい。そのため同胞ではなく、敵対する『国家対国家』として恫喝する姿勢をみせているとの専門家の見方もあります」(同)

「南北統一」というスローガンが、どんどん遠くなっている。

(灯倫太郎)

ライフ