「我々の勝利を前線で!」プリゴジンの肉声で浮上した「ワグネル戦闘復帰」シナリオ

 プリゴジン氏による反乱収束後、ワグネル戦闘員に向け「兄弟同士の流血に進まないという正しい選択をした」と評価したうえで、「今後、国防省と契約すれば任務を継続できるし、ベラルーシに行くこともできる」と呼びかけたプーチン大統領。

 一方、ロシアの独立系メディアでは、隣国ベラルーシにワグネルの戦闘員用と思われるキャンプが建設され、一部の部隊が移動。早くも戦車を使った軍事演習が開始された模様だと伝えている。

 そんな中、先月26日以来、沈黙していたプリゴジン氏が3日、新たな音声を公開。その内容は「近い将来、我々の次の勝利が前線で見られることを確信している」というもので、今後もウクライナ侵攻へ関与することを示唆したのだ。

「このメッセージがいつ、どこで録られたものなのかは不明ですが、ベラルーシのルカシェンコ大統領の説明が事実であれば、反乱後、プリゴジン氏がいったんベラルーシ入りしたことは間違いない。しかしその後、プライベートジェット機でロシアに戻った同氏の姿が伝えられるなど、不穏な動きが続いているのも事実です。現時点で、同氏がなぜロシアに戻ったのかは不明ですが、今回公開された音声には『我々は今まで以上に支援が必要だ』との発言もあり、これは最前線復帰に向け、武器弾薬を軍部に求めたメッセージとも受け取ることができる。いずれにしろ、再びプリゴジン氏が台風の目になる可能性があるということです」(ロシアウォッチャー)

 クーデターを起こしたにもかかわらず、粛清されることもなく、さらに武器弾薬を供給されて前線復帰となれば、いったいあの反乱は何だったのか…と思わざるを得ないが、

「プリゴジン氏は撤退後、あの行動は『裏切り者と戦い、社会を動かすのが目的だった。多くを成し遂げた』と発言しています。それでワグネルが前線復帰となれば、プーチン氏が、このプリゴジン発言を認めたことになるわけです。当然のことながら再び前線では、ショイグ氏ら軍上層部との一触即発の状態が続くことになるでしょうね」(同)

 今回の騒動でプーチン氏は結果的に、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を取り、プリゴジン氏を切ったわけだが、プーチン氏にとってショイグ氏はいわば表の腹心。一方、プリゴジン氏は影の存在で、プーチン氏との関係はショイグ氏のほうが数段深いとされる。

「これまで戦況を変えられないショイグ氏を更迭しなかったことを見ても、それは一目瞭然でしょう。たしかに戦争の最中に国防相と参謀総長を交代させるのは難しいでしょうが、いかにプリゴジン氏が強硬に2人の解任を求めたところで、プーチン氏がそれをのむ可能性は全くなかったでしょう。ただ、このままプリゴジン氏を即時排除すれば、仲介してくれたルカシェンコ氏との関係にも支障が出るでしょうし、軍内でプリゴジン氏を支援してきた反主流派が再び反乱を起こす可能性も考えられる。結局、ワグネルの前線復帰には、そんな思惑が見え隠れしています」(同)

 ロシアのビャチェスラフ・ウォロジン下院議長は2日、「プーチン氏の提案に対し、ワグネル戦闘員の多くが正規軍への合流に同意した」と発言しているが、これは態度を保留している戦闘員へのプロパガンダであるとの見方も強い。現在、ロシア国内での戦闘員募集活動を休止中のワグネルが、前線に復帰することが本当にあるのか。プリゴジン氏の動向が注目される。

(灯倫太郎)

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