「帰還兵の犯罪を報道するな!」凶悪事件急増でロシア大統領府が発令した舞台裏

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、はや1年8カ月。戦争が激化する秋口から、ロシアの刑務所に収監されている受刑者に対し、戦場で6カ月戦って戻ってこられたら恩赦として無罪放免――との約束で、凶悪犯たちを次々と戦場に送り出してきたのが、8月に飛行機墜落事故で死去したワグネル代表のプリゴジン氏だった。

 プリゴジン氏は今年2月、ショイグ国防相と完全に決裂。受刑者採用を廃止したが、その後もワグネルに代わり国防省は刑務所での採用活動を継続していた。そんな受刑者兵士が、6カ月間の戦禍をかいくぐり、続々とウクライナから本国に帰還しはじめている。

「帰還兵の中には殺人や強盗など重罪を犯している元囚人も多く、そんな彼らが生と死が交錯する戦場という非日常空間に半年もの間、身を置いてきたわけですからね。戦場では戦意高揚のためドラッグが常用されていたもようで、生還したはいいがより粗暴になっていたり、精神に支障を来した状態の帰還兵もいるそうです。通常、帰還兵は帰国後2カ月間の心理カウンセリングを受けますが、そのまま姿を見せなくなる者も少なくないのだとか。結果、元の犯罪者に戻り、凶悪事件を起こすケースが後を絶たないようです」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)

 3月下旬には殺人罪で服役中だった元受刑者兵士が帰還して中部キーロフ州に帰郷すると、たった1週間で再び殺人容疑で逮捕される事件が発生。以降も、元囚人兵が6人を殺害した容疑で逮捕されたり、女性をレイプし重傷を負わせた疑いで指名手配されるなど、帰還兵による凶悪事件が相次いでいる。

「直近では8月にウクライナから帰還したワグネルの元戦闘員が10月中旬、祖母を殺害する事件が発生し、国内でも大きく報道されました。当然、国内には不安が広がり、政府に対して批判の声も起こりましたが、とはいえロシア軍は兵士不足が続いているため、国防省としては刑務所でのリクルートはやめないでしょうし、今後も受刑者を“肉の壁”として最前線に送り続けるはず。そこで、政府が苦肉の策として打ち出したのが、今さらながらの帰還兵による犯罪の報道規制というわけです」(同)

 24日、ロシア語の独立系メディア「メドゥーザ」の報道によれば、ロシア大統領府は、国営の報道機関や政権に近いメディアに対し、「ウクライナ侵攻から帰還した兵士の犯罪を報道してはならない」とする禁止令を発令。理由は、帰還兵による相次ぐ凶悪犯罪増加により「国民が兵士の帰還を恐れないようにするため」としているそうだ。

「これまで親政権系メディアでは、ウクライナで投獄され、帰還してPTSDを発症した兵士らの談話を積極的に伝え、ウクライナの残虐性をアピールしてきました。しかし今やそれも逆効果になっているようで、今度は犯罪行為の報道を一切取りやめよとの通達ですからね。でも、ロシア語の独立系メディアはこれまで通り報じるでしょうから、情報を遮断することは難しいでしょう」(同)

 臭い物には蓋というわけだが、いまさら感が拭えないこの命令に、どれほど効果があるか……。

(灯倫太郎)

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