ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がロシアの刑務所でリクルートした囚人兵は約4万人。西側情報当局によるとその大半が前線で死傷したとみられている。6カ月を生き延びられれば罪は赦免され自由の身となるが、やはり死と隣り合わせの精神状態がさらに彼らを狂暴にさせるのだろうか。帰還した故郷で凶悪事件を引き起こしていた(4月4日配信記事)。
予想されていたとはいえ、案の定、懸念していた事態が起こりはじめたようだ。
ウクライナ侵攻開始後、恩赦と引き換えにロシアの民間軍事会社「ワグネル」戦闘員となっていた囚人兵が、6カ月の徴兵期間を終え続々と帰還する中、このほど赦免を受け故郷に戻った男が、わずか1週間足らずで再び殺人を犯して逮捕されていた。ロシア独立系メディア「メドゥーザ」が伝えた。
「男はイワン・ロソマヒンという28歳の元受刑者で、2019年に酒に酔って知人女性を殴打し、首を絞めて殺した容疑で逮捕され、禁錮14年の判決を受け刑務所に服役。昨年の夏にワグネル戦闘員に応募し、ウクライナの最前線へ派遣されていました。欧米の情報機関によれば、ワグネルは昨年秋、ロシア軍劣勢の穴を埋めるため、刑務所でのリクルートを強化したものの、ほとんど訓練も装備もなく戦場に送られたため、受刑者の戦闘員約5万人中約4万人が、戦死するかあるいは捕虜となったと伝えられています。そんな中で半年間を戦い抜き帰還したこと自体がまれなケースですが、男は恩赦で帰国後の21日に、モスクワから東に1000キロほどのキーロフ州にある故郷の村に戻り、そこで再び殺人事件を起こしてしまった。帰還からわずか1週間後の出来事に、地元住民は恐怖のどん底に突き落とされました」(ロシアウォッチャー)
現地住人の証言を伝えたメドゥーザによれば、男は帰郷した直後から、斧や鉄パイプを手にして「お前らを皆殺しにしてやる!」と叫び、車のガラスを割るなどして暴れるトラブルを繰り返していた。22日に警察が身柄を拘束し、27日には地域住民の集会が開かれ、地元テレビ局がその模様を報道したという。
「報道によれば、地元警察もこの集会に参加。『男が行動を改めなければ、戦場へ送り返してほしい』と住民は求めたようですが、結局29日に近隣の町で女性の遺体が見つかり、男が殺人に関与しているとして逮捕されたのです」(同)
この事件を受け、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、元戦闘員が絡む事案が発生すれば必ず法執行機関に協力すると表明。しかし、同氏の説明では元受刑者兵による、帰還後1カ月の再犯率はわずか0.31%にすぎず、把握している数は「20人だけ」と主張している。
「とはいえ、あくまで帰還後1カ月にかぎった調査で、その内容も詳細は一切公開されていません。帰還後、元受刑者は故郷に戻されますが、その後の動向はわかりませんからね。プリゴジン氏によれば、現状で自由の身になった元受刑者は約6000人。彼らはみな戦争を体験したことで『再犯率は侵攻前より10倍以上減った』とうそぶいていますが、その見解も根拠などない。恐ろしいことですが、今後も囚人帰還兵による凶悪事件が増えることは間違いないでしょうね」(同)
プリゴジン氏は今年2月、受刑者の採用をやめる方針を明らかにしたが、現地の独立系メディアよれば、今度はロシア国防省が刑務所での採用活動を続けているとされる。
英国防省は「衝撃的な戦闘経験が多い暴力的犯罪者の社会流入が、ロシア社会に危険をもたらすだろう」と指摘。そんな中で継続される受刑者徴兵。野に放たれる犯罪者らの動向に、ロシア国民の不安は募るばかりだ。
(灯倫太郎)