中国が海外で反体制活動を展開する人々を追跡するため、各国に秘密裏に設置しているとされる「非公式警察署」。実態を報告書にまとめた人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」によれば、その数は世界53カ国に100箇所以上あり、この10年ですでに120カ国から約1万人を超える中国人が本国へ送還されているという。
中国では2014年頃からこの「非公式警察署」を使い、いわゆる「キツネ狩り作戦」を激化させているという。
「中国では名目上、この作戦を『横領・詐欺などで海外に逃亡した汚職人物を追跡、送還することが目的』と位置付けていますが、実際には汚職議員や企業家の他にも、反体制傾向の強い法輪功関係者や海外で反中デモなどをおこなう中国人活動家、内部暴露者、ジャーナリストなどを拘束して、『本国に帰国しなければ家族が大変なことになるぞ!』などと脅し、強制帰国させています。もちろん、こうした行為は中国当局が他国の主権を侵害することになり、国際法違反。欧米ではかねて、法と人権を無視した振る舞いとして問題視されてきました」(全国紙記者)
実は日本でも昨年、東京・秋葉原で「非公式警察署」の存在が明らかになり、銀座や名古屋・栄といった繁華街にも同様の場所があることが、同人権団体の調査により判明している。
「国によって違うようですが、日本の場合は表向き在日中国人留学生や在日中国人の交流を目的とした親睦団体を装いながら、実は中国領事館指導のもとで反習近平思想や、反共産党的な危険分子をあぶり出し、中国本国に通報。強迫的な言動で本国に送り返していると言われています」(同)
中国はICPO(インターポール:国際刑事警察機構)に加盟しているため、自国の犯罪者が国外逃亡した場合は、指名手配する権利を有している。だが、海外へ職員を派遣し個人を逮捕する権限などあるはずもなく、しかも非公式警察署の主な確保対象が活動家であることを考えると、やはり国際法違反の人権無視為行為だと言わざるを得ない。
しかも、帰国後の彼らを待ち受けているのが、恐ろしい懲罰だというのである。
「2020年の時点で中国が『犯罪人引渡条約』を締結している国は59カ国。これまで50人の中国人犯罪者が引き渡されているとされますが、中国と犯罪人引渡条約を締結している国の中には、引き渡し後に処刑することを禁じている国も少なくない。ところが、人権団体『セーフガード・ディフェンダーズ』の報告書によれば、例えばタイで逮捕された男は中国へ移送された後、ほどなく極刑に処されています。カナダで逮捕された容疑者も、カナダ政府が人権保護を要求したものの、引き渡された後に処刑されていた。非公式警察署によって強制送還された活動家たちは、指名手配された刑事事件の犯罪者ではないものの、習近平政権、中国共産党に歯向かう者として、同等、あるいはそれ以上の罪人とみなされても不思議ではありません。つまり、同人権団体の追跡調査にあるように、本国に送り返された後に拷問されたり、極刑に処される可能性があるということです」(同)
この問題に対し、共和党下院議員のマイク・ギャラガー氏も、「米国は中国の狩り場ではない。米国民を脅かす主権侵害行為を看過することはできない」と中国を痛烈批判しているが、中国非公式警察による「キツネ狩り作戦」は拡大するばかりだという。
(灯倫太郎)