先月、スパイ容疑で中国側に拘束された「アステラス製薬」の50代男性社員。現地法人の幹部で任期を終えて日本に帰国する直前のことだったと伝えられており、北京を訪れた林芳正外相が4月2日、秦剛(しん・ごう)国務委員兼外相と会談。男性の早期解放を求めたものの、先行きが見通せない状況だ。
実は、中国では以前から同様のケースが相次ぎ、大手企業では10年には大手ゼネコン「フジタ」の社員4名が拘束されている。このときは3人が10日後、最後の1人も保釈金を支払って約半月後に解放されている。
たが、16年に拘束された日中青年交流協会の元理事長は懲役6年の判決を受け、ようやく帰国できたのは昨年10月。また、17年に温泉開発の地質調査で訪れていた50代男性は懲役15年、19年に湖南省長沙市で拘束された50代男性は懲役12年の判決を受けていたことがそれぞれ判明。現在も投獄中と見られている。
実は、中国では14年に「反スパイ法」の呼び名で知られる「中華人民共和国反間諜法」が制定された。これまでに日本人は17名が拘束されているが、いずれも具体的な容疑については不明だ。これでは、中国に赴任したり出張の機会のある人にとってはたまったものではない。
上海に赴任中の駐在員男性が不安げに語る。
「他人事には思えませんよ。身に覚えのない容疑で拘束して、要は中国政府の意向でどうにでもできるってわけですよね。以前から似たようなことが何度も起きているため、私の会社ではみんな中国には行きたがらない。『もし赴任の打診をされたら会社を辞める』とまで言っている同僚もいます」
会社からは「屋外の不用意な撮影を控えるように」「政府や軍の施設には近づかないように」とお達しを受けているそうだが、当たり前すぎて参考にすらならないという。
「仕事やプライベートで中国人と会う際も相手とどんなに親しくなっても体制批判と受け取られる言動は絶対にしないように避けています。でも、当局が本気で私を拘束しようと思ったら身を守る術はないと思います」(前出・駐在員)
ビジネスマンにとっても中国行きは命がけのようだ。