現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」では溝端淳平(33)が演じ、物語序盤の重要キャラとして登場する今川氏真。多くの時代劇や歴史小説では無能な人物として描かれ、人気歴史シミュレーションゲーム「信長の野望」シリーズでも能力は全武将の中で最下位レベルだ。
父の今川義元は1560年、桶狭間の戦いで織田信長に討たれたが、遠江・駿府・三河の東海3国を支配していた大大名。家督を継いだ氏真は、それからわずか9年ですべての領地を失い、人々からは〝戦国時代のリアルバカ殿〟と不名誉の形で認知されているが、研究者の間からは「そうした世間のイメージは誤り」との声も聞かれる。
「桶狭間では義元以下、多くの家臣も討たれ、極端な人材不足に陥りました。家臣だった松平家(徳川家)は三河で独立し、さらに武田と北条という強力な勢力に挟まれ、今風に言えば半分詰みの無理ゲー状態。その状態で斜陽の今川家を9年も存続させたわけですから無能どころか優秀です」(歴史研究家)
ちなみに氏真の没年は1615年で享年77歳。翌年亡くなった徳川家康(75歳)をはじめ、織田信長(49歳)、豊臣秀吉(62歳)の戦国三英傑の誰よりも長生きしている。大名家としての今川家滅亡後も北条家や徳川家の庇護の元、46年も過ごしたというから驚きだ。
「蹴鞠の名人として知られ、歌人としても室町時代〜江戸時代初期に活躍した『集外三十六歌仙』の1人に数えられています。でも、これらにうつつを抜かし、遊んで余生を過ごしたというのは作り話。外交担当者として公家など朝廷とのパイプ作りに尽力したほか、剣術も戦国時代を代表する剣豪・塚原卜伝の弟子で達人級の腕前でした」(前出・研究家)
では、ここまで愚将として描かれているのはなぜなのか?
「文献の多くは支配者側に都合のいい内容で、敗者側が過剰に評価を下げているからです。彼の場合、優しすぎる性格が戦国時代には合わなかった。それでも支配欲などの野心がなかったこと、かつての家臣だった家康に頭を下げられる腰の低さが身を助けた。太平の世であれば、もっと能力を発揮できたかもしれません」(前出・研究家)
氏真の処世術は現代でも参考になりそうだ。