池上彰がズバリ解説「米中大異変で日本はどうなる?」(1)習近平1強の中国が危ない!

 ロシアによるウクライナ侵攻から間もなく1年。世界の安全保障が大きく揺らぐ中、我が国、日本はどこへ向かうのか? ジャーナリストの池上彰氏が特別講座を開設。世界を知れば日本の未来が見えてくる! 前編は緊張高まる2つの超大国の情勢から〝転ばぬ先の知恵〟を伝授する。

─ウクライナでの戦火が続いていますが、日本も東シナ海を挟んで対面するあの国が気になります。

 中国のことですね。昨秋の共産党大会では、異例の3期目に突入した習近平(69)の1強体制となり、誰も文句が言えない状態です。中央政治局および、常務委員会も習近平の言うことを聞く人だらけ。誰もアドバイスできない、まさに裸の王様です。よって、習近平がコケれば、中国全体がコケるという非常に危険な状態になっています。

─しかし、若者の抗議行動で、それまでの「ゼロコロナ政策」を簡単に翻意してしまいました。

 確かに、学生たちが政治的主張などを書かず白い紙を掲げて大規模な抗議を行ったことは衝撃でした。でも、実は習近平自身もいつまでも「ゼロコロナ政策」が行えるわけがないと思っていたんです。つまり、いくらロックダウンなどしても感染力の強いオミクロン株は広がってしまい、経済的に立ち行かなくなってしまうわけです。習近平はどこかの段階でこの政策をやめざるを得ないと思っていた。とりあえず、党大会まではこの政策で大きな実績を上げたという形にしていたのです。そこに、学生たちが白いプラカードを掲げたというわけです。

─まさに、渡りに船だったわけですね。

 中国政府はゼロコロナをやめた後、わずか1カ月で6万人近い死者が出たことを発表しました。今後100万人が死亡するという予測もありますが、14億の人民を抱える習近平にしてみれば、ひょっとして100万人ぐらい大したことない、と思っているのかもしれません。まもなくほとんどの国民がコロナ感染による集団免疫を獲得する。つまり、ゼロコロナの次は一気にアフターコロナとなり、マスクなしで経済活動が再開できることになるんです。

─でも、水際対策を強化した日本に対して、ビザ発給を停止するなど、あまりに自己中心的です。

 ただし、これまでのような経済成長は望めないのではないかと言われています。例えば、ネット通販大手アリババグループ創業者ジャック・マー(58)は共産党を批判したとたん国内で仕事ができなくなり、現在は国外へ逃亡しています。これまで規制がなかったIT企業に急ブレーキがかかっているのです。習近平体制により、本来、中国は米国を抜いてGDP世界一になるだろうと言われていましたが、コロナの影響もあり失速。このままでは米国を抜けないかもしれません。また、人口増加を追い風に経済成長してきたが、その人口も急減。特に15歳から60歳までの生産年齢人口が減り始めており、今年度中にインドに抜かれ世界2位になってしまうんです。

─それでも習近平体制は続くことに?

 党大会では、習近平は後継者を選ばなかった。つまり、4期目もまた狙っているということなんです。

池上彰(いけがみ・あきら)1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部でさまざまな事件を担当。94年より11年間、「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年にNHKを退社、フリージャーナリストとして多方面で活躍。現在は名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授など11の大学で教える。「伝える力」シリーズ(PHP新書)、「おとなの教養」(NHK出版新書)、「私たちはどう働くべきか」(徳間書店)など著書多数。近著に「そこが知りたい!ロシア・ウクライナ危機 プーチンは世界と日露関係をどう変えたのか」(徳間書店)

*週刊アサヒ芸能2月2日号掲載

ライフ