「フラれた〜」と立ち飲み屋で独り者のAさんがしょげていた。自分より一回り若い未亡人といい仲になって、残りの人生、一緒にならないか? とプロポーズしたが「籍は入れたくない」と断られたという。
Aさんには言わなかったが、私はその言葉にピンときた。未亡人の元夫は一流会社の重役だったという。元会社員などで「老齢厚生年金」をもらっていた夫が亡くなると、その妻には「遺族年金」が出る。それが入籍の大きな壁となっているのだ。
よく、会社員の年金は2階建てだという。国民全員の基礎年金部分と、会社員や役人など厚生年金を払っていた人だけの厚生年金の上乗せの2階部分。この2階部分は現役時代に納めた年金額で変わり、給料が高ければ年金の掛け金も多く払っているから、もらう年金も多くなる。
未亡人は遺族として夫の2階建部分(報酬比例部分)の75%が死ぬまで支給されることになるのだが、死ぬまでといっても一つ条件がある。それは未亡人(遺族)であるかぎりということ。つまり、再婚すると支給されなくなるのだ。
出世した夫だったら、その年金金額もドデカイ。その75%は未亡人の日々の生活の土台になってるはずで、それがなくなってしまったら生活は成立しない。ホレてはいてもお金も必要。大人の恋は現実がついて回るものなのだ。
年金が少ない、本当にもらえるのか。もちろんそういう心配をするのはいい。事実、年金制度の改善はなかなか進まない。行われるのは少しずつ支給額を減らすことばかりだ。
しかし、もらう年金が少ないのであれば、増やす工夫をしてほしい。そして、年金のルールを知らないで不平ばかり言っているだけでは、損をするのは本人とその家族だ。
前回から言ってるように、通常もらう65歳からの年金だけで人生100年時代の老後を支えるのは難しい。特に国民年金だけじゃ満額もらっても年に80万円弱。生活を成立させるのは困難だ。
だから65歳からではなく、もらい始めを遅くすることで、もらえる年金額をどんどん増やす。この制度をうまく使ってほしい。
詳しくは前回を読み直してもらうとして、それでは70歳まで年金をもらうのを遅くするとして、その間の生活費はどうするか?
今は60歳どころか65歳で仕事を辞める人も少ない。働けるのであれば、70歳くらいまで働くのは普通だ。別に若い頃のように朝から晩まで働かなくても、生活が困らない程度に働けばいい。その時にぜひ考えてもらいたいことがある。それは、60歳を過ぎたら、厚生年金制度のある職場で働くことにこだわってほしい。
60歳以降も、きっちり厚生年金を毎月払いながら働いたほうがいいのだ。なぜなら自営業者などが入る国民年金は原則60歳まで、最大480カ月(40年)までしか加入できない(支払えない)が、厚生年金は60歳どころか70歳まで働いて厚生年金を支払うと、老後の年金がどんどん増えていく。つまり、2階建部分をどんどん増築できるのだ。
さらに、もらい始めを遅くすれば、その分、ダブルでもらう年金が増えていく。死ぬまで増えたまま続くため、生活の心配は確実に減るというわけだ。
これまで3回にわたって年金を取り上げてきたが、年金のことばかり書いているわけにもいかない。
もっと知りたい人は著書「おひとりさまが知って得する、お金の貯め方・増やし方」(ぱる出版)、また、女性や奥さん、娘さんなどに年金で損をしてほしくなければ「急に仕事を失っても、1年間は困らない貯蓄術」(亜紀書房)に詳しく、わかりやすく書いているので、ぜひ、読んでみてほしい。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活動中。著書「おひとりさまが知って得する、お金の貯め方・増やし方」(ぱる出版)ほか多数。